コラム

福島県沖地震後にもっとも拡散した外国人関連ツイートは、ヘイトではなく安全情報だった

2021年03月02日(火)18時00分

翌朝から再び増加し、地震直後以上のツイート数になったが、その多くは差別やヘイトに対する批判だった。(一田和樹作成)

<2月13日23時の福島県沖で最大震度6強の地震で、毎日新聞は、デマや差別発言が「桁違いの拡散」をしたと報じたが、ほんとうにそうだったのだろうか。ツイッターのデータを取得する方法で調べてみた......>

2021年2月13日23時09分に福島県沖で最大震度6強の地震が発生した後の、地震と外国人(韓国人、中国人)に関するツイートの統計を取ってみた。毎日新聞は、デマや差別発言が「桁違いの拡散」をしたと報じたが、ほんとうにそうだったのだろうか?

もっとも多かったのは、ヘイトではなく外国人のための安全情報だった

以前、ご紹介したツイッターのデータを取得する方法を用いて、検索条件に該当するツイートを取得し、集計した結果、下記のことがわかった。地震後と書いている場合は、特に断りのない限り、2021年2月13日23時09分から2月14日12時09分の間にツイートされたものを対象にしている。データ取得と集計の詳細はブログを参照いただきたい。

・地震後、地震と外国人にまつわるツイートは49,300件確認され、リツイート率は93.58%(46,136件)と高く、たったひとつのツイートがツイート全体の63.06%に拡散されていた。RT占有率は99.99%以上と非常に高い。RT占有率とは全体の50%を占めるリツイートの元のツイートの%を50%から引いて2倍した数であり、高いほど少数のリツイートでツイートを占有されていることになる。

・全体の63.06%に拡散されたツイートは、大規模な地震の発災時・避難時の注意点等に関するもので外国語版の存在を紹介するものだった。リツイートの上位81.5%(リツイート回数37,601回)は4つのツイートで占められており、上位3つの内容は外国人向けの安全情報の提供に関するものだった(差別やヘイトを含まない)。具体的には外国語で読める災害の際に役立つ冊子(PDF)やNHKの外国語での情報提供に関するものだ。4位は震災の際の差別やヘイトをやめよう、見かけたら通報しようという呼びかけだった。

・「千葉で爆発」に関するツイート(「千葉 AND 爆発」で検索して取得した)は14,000件あり、たったひとつのツイートが8,415回拡散され、ツイート全体の50%を超えていた。RT占有率は99%を超える。内容は、千葉市原方面が爆発しているという言葉と画像を含むもので、デマを意図した煽り文句はなく、単に驚いてツイートしたような内容だった。

・地震と外国人と「千葉 AND 爆発」にまつわるツイートは、地震直後に大きく拡散し、収束した。

・地震直後にヘイト、差別的な内容を含むツイートが現れたが、通報され、アカウント凍結あるいはツイート削除された。ほとんどはあまり拡散力のない(フォロワーの数が少ない)ものだったと推定されるが、例外的に1万4千を超えるフォロワーを持つアカウントがあった。すぐに凍結されたため、その後の拡散にはいたらなかった。凍結されたことが話題になり、アカウント名がトレンド入りしたことを考えると、そのまま凍結されなければより拡散していた可能性がある。

・熊本地震の先行研究(後述)と比較すると、今回は外国人のための安全情報提供の広がりなど、状況は改善されたように考えられる。

・「井戸に毒をまいた」という類いのツイート(「井戸 AND 毒」で検索)関する発言はいったん鎮静化した後、翌朝から再び増加し、地震直後以上のツイート数になった。その多くは差別やヘイトに対する批判だった。

毎日新聞は「地震でまたも飛び交ったデマや差別発言 桁違いの拡散、どう対処?」と報道したが、今回は差別ツイートの桁違いの拡散はなかったと考えられる。

鳥海不二夫の「2021年福島県沖地震でデマは桁違いに拡散したのか」(ヤフーニュース、2021年2月17日)でも、差別やヘイトツイートは多くなかったことと、人工地震についてはそれなりにツイートがあったものの「桁違い」ではないことが確認されている。

地震直後から翌日昼までのツイート拡散状況

地震と外国人(中国人、韓国人)、「千葉 AND 爆発」の時系列変化をグラフにしたものは下図のようになる。増減が激しいので対数目盛にしてある。千葉爆発グラフについては、拡散と減少が急激に起きたことがわかるように通常の目盛りのものも付した。

地震と外国人(中国人、韓国人)グラフの「問題」は差別やヘイトなどの問題を含んだツイートである。「それ以外」は文字通りそれ以外であるが、ほとんどは外国人向けの情報提供だった。千葉爆発グラフの拡散というのは、爆発が起きていることを拡散しているツイートの数で、抑止はそうではないことを指摘しているツイートの数である。

ichida0302a.jpg

ichida0302b.jpg

ichida0302c.jpg

ichida0302d.jpg


井戸と毒に関するツイートは、その数において地震と外国人(中国人、韓国人)や「千葉 AND 爆発」よりもかなり少ない。そして、しばらく時間が経ってから発言数が増加している。ただし、常に「抑止」のツイート数の方が多い状態が続いていた。直後に莫大な数が発生し、すぐに削除あるいは凍結された可能性もあり得るが、筆者は地震後の午前2時、4時、そしてそれ以降数回データを取得し、確認を行ったが、差別的ツイートが桁違いにあった痕跡は発見できなかった。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story