コラム

戦後70年談話報告書に学ぶ平和主義の歩み

2015年08月07日(金)13時51分

 現在の日本において、平和主義としての精神が驚くほどきわめて強く根付いている。日本における平和主義の強靱さは、戦争を否定して平和を求めるデモ活動の規模の大きさを見ても、実感できる。それらの人々にとって、平和は何よりも尊い価値なのだ。それは、平和を求めるデモを行う人たちだけに独占されるものではない。日本国民に広く共有される価値である。安倍首相や、与党である自民党や公明党、そしてそれらを支持する人々を含めて、日本において平和の価値はいまや強靱な根を張っているのだ。

 21世紀構想懇談会の報告書が示すとおり、先の大戦への痛切な反省から、日本国民は平和主義の精神を70年間受け継いできた。そのような平和主義の精神に加えて、すでに述べたような国連憲章で示される戦争違法化の規範が、国際社会では定着している。主要な大国間の大規模な戦争は、過去70年間一度も起こっていない。そして、日本国憲法第9条は、侵略戦争や、国策の手段としての戦争を、明瞭に否定している。これらをすべて総合するならば、今の政権が戦争を欲するはずがないし、また戦争ができる国にしようとしているわけでもない。日本がもしも武力を行使する必要があるとすれば、それはわが国が侵略されたときであり、国民の生命を守るためであり、国際社会において平和を回復しようとするときであろう。われわれはもっと、戦後70年に築き上げた平和主義の精神と、国際社会における戦争違法化の規範を信頼し、それに自信を持つべきではないだろうか。

<写真:Thomas Peter-REUTERS>

プロフィール

細谷雄一

慶應義塾大学法学部教授。
1971年生まれ。博士(法学)。専門は国際政治学、イギリス外交史、現代日本外交。世界平和研究所上席研究員、東京財団上席研究員を兼任。安倍晋三政権において、「安全保障と防衛力に関する懇談会」委員、および「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」委員。国家安全保障局顧問。主著に、『戦後国際秩序とイギリス外交』(創文社、サントリー学芸賞)、『外交による平和』(有斐閣、櫻田会政治研究奨励賞)、『倫理的な戦争』(慶應義塾大学出版会、読売・吉野作造賞)、『国際秩序』(中公新書)、『歴史認識とは何か』(新潮選書)など。

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