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「チェスは時間の無駄、金の無駄」のサウジでチェス選手権の謎
とはいえ、宗教的な制約の強いこの国で、最高宗教権威の判断を無視して、はじめてチェスの世界大会が開かれた意味は大きい。
実際、この大会はサウジアラビアの総合スポーツ委員会(スポーツ庁に相当)の後援を受けており、国家のお墨つきを得たことになっている。積極的に娯楽分野の発展を進める最近のサウジアラビアらしい動きといえるだろう。
チェスの本場は実は欧米より中東なのに
ちなみにイスラームでチェスは非合法だと述べたが、チェスはもともとインドで生まれた「チャトルアンガ」という盤上遊戯がイランに伝わって、「チャトラング」となり、これが現在のチェスの原型だとされている。
チャトラングはアラビア語で「シャトランジ」となり、それがヨーロッパに伝わったというのが定説になっている。たとえば、スペイン語でチェスを意味する「エシェドレー」はシャトランジのまえに定冠詞(アル)をつけたものが訛ったという説が有力だ。また、フランス語の「エシェク」や英語の「チェス」は、いずれも「王」を意味するペルシア語「シャー」が訛ったものと考えられている。
つまり、チェスの本場は、欧米ではなく、むしろ中東のほうなのだ。その中東でチェスが宗教や政治に翻弄され、禁止されたり、批判されたりしているのは、歴史の皮肉であろう。
サウジの政治的なライバルであるイランのチェス界でも、興味深い事件が起きていた。イランの女性ナショナルチームのメンバーだったドルサー・デラフシャーニーが昨年ジブラルタルで行われていた国際大会でヒジャーブをかぶらずに試合を行ったとして、ナショナルチームから追放のうえ、イラン国内での試合も禁止されてしまったのである。
ちなみに彼女の弟、ボルナーも、イスラエル選手とオンラインで試合をしたとして、やはりイランのチェス連盟から追放されてしまった。その後、姉は米国、弟は英国のチームに参加することになったようだ。
インターネット上に公開されている彼女の写真をみると、たしかにイランでこれはまずいでしょうっていうのがあるのだが、政治や服装でチェスの世界が右往左往するというのは、どちらにせよいいことではあるまい。
国際チェス連盟のモットーはラテン語で"Gens Una Sumus"というそうだ。日本語だと、「われら1つの民」とでも訳せるだろうか。国の威信がかかってくると、チェスを通じて、みんな仲良くというわけにいかなくなるのは、冷戦期のボビー・フィッシャー対ボリス・スパスキーの米ソ対決のときからかわっていないのである。
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