アングル:消される女性のヘルスケア情報、団体や事業者がテック企業の「検閲」に懸念

アマゾンやグーグル、ティックトック、メタといった大手テクノロジー企業が、自社の運営するプラットフォーム上で女性の健康に関するコンテンツを制限しつつある。画像はフェイスブックとインスタグラムのアプリ。2023年2月、ボスニア・ヘルツェゴビナのゼニカ市で撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)
Lin Taylor
[ロンドン 18日 トムソン・ロイター財団] - アマゾンやグーグル、ティックトック、メタといった大手テクノロジー企業が、自社の運営するプラットフォーム上で女性の健康に関するコンテンツを制限しつつある。これを指摘した慈善団体や事業者は、コンテンツの制限や削除は、多様性に関するポリシーや生殖に関する権利をますます後退させることを懸念している。
女性の健康を使命とするスタートアップから生殖関連医療に関する団体まで、多くの関係者が、ソーシャルメディアでの投稿が検閲されたり、有料のネット広告が拒否されたり、アカウントが凍結されたりする事例を指摘している。
「私たちはネットの安全性を軽視しているわけではない」と、英センスハーシップの共同創設者クリオ・ウッド氏は語った。同社は先週、ネット上のコンテンツ制限を調査するよう欧州委員会に要求するキャンペーンを開始した。
ウッド氏はトムソン・ロイター財団に対し、「私たちが問題視しているのは、アルゴリズムがわいせつなコンテンツと、正当な女性の健康に関する教育的コンテンツを区別できていないという点だ。同じ身体の部位について話していても、その目的や内容は全く異なる」と語る。
<「非常に危険な領域」>
米国の人権団体「センター・フォー・インティマシー・ジャスティス」の最近の報告によれば、「妊娠中絶」「乳房」「膣」といった言葉を含むコンテンツや、月経や性的医療を取り扱うコンテンツは、「性的に露骨」と判定され、削除される可能性が高くなるという。
約160の女性の健康に関する企業や慈善団体を対象としたグローバル調査によると、60%がフェイスブックやインスタグラムの親会社であるメタによって投稿を削除された経験があると回答し、3分の1以上がアマゾンでアカウントが凍結された経験をしていた。
2月に発表されたこの報告書によれば、更年期関連のビジネスに取り組む企業や性教育に関する団体など、回答者の過半数はティックトックによるコンテンツ削除を経験しており、70%近くがグーグルから広告を拒絶されていた。
対照的に、男性の性的健康に関する商品を宣伝する投稿や広告は、性的な暗示やわいせつな画像を使っていても、プラットフォームを問わず認められていると、この報告書は指摘している。
在宅の人工授精用製品を販売するベア・ファーティリティの共同創業者テス・コサド氏によると、同社の場合、アマゾンの商品ページで「膣」という単語は使用禁止とされているが、「精液」という言葉は使えるという。
アマゾンの広報担当者はメールで、コンテンツ監視の判断に誤りがあると考える場合にはサポートチームに連絡するよう販売事業者に呼びかけており、「適切な異議申し立て手段を導入している」とコメントした。コサド氏は、代案として「膣」の代わりに「産道」という言葉を使用するというアイデアも浮かんだが、結局アマゾンから完全撤退したという。
「医学用語なのだから、使えなければおかしい」とコサド氏は言う。「ある言葉の使用を禁じられることは、消されると同じことだ。言い換えることはできるが、それはまさに検閲の始まりであり、非常に危険な領域へと踏み込むことになる」
<権利の後退>
この報告書が出たタイミングは、ちょうどトランプ米大統領があらゆる連邦政府機関において「多様性・公平性・包括性」(DEI)政策を停止し、メタやアマゾンなど大手グローバル企業も自社のDEIポリシーを後退させた時期と重なった。
またトランプ大統領は1月、人工妊娠中絶に反対する2つの国際的な取り決めに復帰した。そのうち1つにより、人工中絶治療を提供する海外の組織に対する、米国の家族計画関連基金からの資金提供が停止された。
国際連合は3月初め、「女性の身体が政治的な戦場となっている」と警告し、人権活動家はさらなる後退を懸念している。
米国を拠点とする「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康と権利)を守る医師連合」でソーシャルメディア担当シニアストラテジストを務めるミケイラ・ドーソン氏は、今年に入ってから、フェイスブックとインスタグラム上で、同団体がますます目立たなくなっていると語る。
ドーソン氏はメールでコメントを寄せ、「よく知られたことだが、メタ社は、サービスが『家族向け』であることを謳いつつ、その枠組みを口実にして、同社が政治的であるとみなすコンテンツの抑圧を正当化している」と述べている。
メタにコメントを求めたが、回答はなかった。
ドーソン氏は、「ビッグテックが私たちのコンテンツよりも反科学的な感情や明白な虚偽を支持するなら、人々の実生活に対しても潜在的に危険な影響が及ぶだろう」と述べた。
2022年、検索最大手のグーグルは、「中絶」を検索したユーザに対して「妊娠危機センター」(CPC)の検索結果を表示したことで批判を浴びた。CPCは、女性を中絶治療から遠ざける活動をしている。
妊娠中絶薬の米国内での入手方法を解説している団体「プランC」によれば、何年も前からグーグルへの広告出稿を拒否されており、メタや動画共有プラットフォームのティックトックでは、アカウントの凍結処分が日常化しているという。
プランCのデジタル部門ストラテジストを務めるマーサ・ディミトラトゥ氏は、電話インタビューの中で「私たちへの抑圧が続くので、何度も繰り返し時間のかかる異議申し立てを行わざるを得ない」と述べた。
グーグルはある声明で、有償での広告出稿を拒否されたことに納得がいかない団体に対し、異議を申し立てるよう呼びかけていると述べている。
「弊社は以前から、性的健康に関するさまざまな製品とサービスの広告を許容しており、最近も、さらに多くの製品の広告が可能になるよう広告ポリシーを改定した」とグーグルは主張している。
ティックトックは自社のコミュニティガイドラインについて、「あらゆる人、あらゆるものに」適用されるとして、コンテンツ作成者は決定に異議を申し立てることができると述べた。
<「言い換え」は逆効果に>
活動家は、不適切投稿を監視する担当者やアルゴリズムは女性の健康に関する用語のニュアンスについて訓練を受けておらず、言い換えを勧めてくることが多いが、そうした言い換えは女性の健康を語ることの恥辱感の固定化につながると指摘する。
アラブ諸国における性暴力についての啓発をめざして「セックストーク・アラビック」を創設したファトマ・イブラヒム氏は、タブーを破るために意図的に「過激」なコンテンツをフェイスブックとインスタグラムに投稿しているが、反対派によって不適切投稿として通報されてしまうことが多く、アカウント凍結や投稿の検閲につながっていると語る。
イブラヒム氏はビデオインタビューの中で、「こうした取組みが可能な空間はネットだけだ。性暴力について普通のこととして語り合えるようにするために、ソーシャルメディアを活用している」と述べた。
生理用品を購入する余裕のない人を支援しているオランダの慈善団体「ネイバフッド・フェミニスト」によると、この1年間、インスタグラム上ではオンラインでの反応が減少しており、原因として、月経を直接的に表現していることが考えられるという。
共同創設者のタミー・シェルダン氏は、「婉曲的な表現に逃げるのは嫌だ。そうした言い換えは、私たちが打ち破ろうとしている恥ずかしさや後ろめたさを完璧に強化してしまうから」と語る。
(翻訳:エァクレーレン)