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アングル:石炭依存度高い西バルカン諸国、EUの炭素税で打撃受ける可能性

2025年03月16日(日)08時13分

 3月12日、ボスニア・ヘルツェゴビナから北マケドニアに至るまで、石炭火力発電への依存度が大きい西バルカン諸国の政府は、来年、欧州連合(EU)の「グリーン関税」が導入される際に大きな経済的打撃を受けることになりそうだ。写真はボスニア・ヘルツェゴビナのノバ・ビラにある炭鉱で働く人々。2021年5月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

Joanna Gill

[ブリュッセル 12日 トムソン・ロイター財団] - ボスニア・ヘルツェゴビナから北マケドニアに至るまで、石炭火力発電への依存度が大きい西バルカン諸国の政府は、来年、欧州連合(EU)の「グリーン関税」が導入される際に大きな経済的打撃を受けることになりそうだ。

西バルカン諸国にとって、石炭火力による電力は二酸化炭素排出量の最も多い輸出品目のうちの1つであり、EUが新たに導入する炭素国境調整メカニズム(CBAM)の対象になる。CBAMは、カーボンフットプリントの大きい輸入品に対して事実上の関税を課す仕組みだ。

エナジー・コミュニティー事務局の元ディレクター、ジャネズ・コパック氏は、西バルカン諸国はEUとの経済的・地政学的な結びつきが「非常に強く」、この関税を逃れることは困難だろうと語る。エナジー・コミュニティーは、EUと近隣諸国を結びつけ、汎欧州エネルギー統合市場を創出しようという国際組織だ。

西バルカンでは国によって差があるとはいえ、電力の60-95%を石炭火力発電に頼っており、域外に輸出される電力のうち60%が石炭火力由来だ。

欧州南東部を占めるアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、モンテネグロ、セルビアはEU6カ国と国境を接しており、各国にとってEUは主要な貿易相手である。

エネルギー分野のアナリストの中には、導入予定の炭素税は、西バルカン諸国がEU加盟をめざす中で同地域でのクリーンエネルギー投資を促すインセンティブになるという見方もある。

だがその狙いが外れれば、経済的な副作用が大きくなりかねない。

コパック氏は、「各国とも遅かれ早かれ適応はするだろうが、楽な道のりではないだろう」と言う。

<「炭素のカーテン」>

新たな炭素税が各国に与える打撃は、輸出する電力のカーボンフットプリントによって変わってくる。CBAMによってEUの輸入事業者が炭素価格を徴収されるようになれば、事実上、西バルカン諸国からの輸入電力はこれまでより割高になる。

中欧・東欧の環境関連非政府組織(NGO)のネットワークであるCEEバンクウォッチの試算によれば、アルバニアはもっぱら水力を利用しているため影響は限定的だが、ボスニア・ヘルツェゴビナの場合は、EU向け電力輸出による年間収益が2億2000万ユーロ(約353億円)以上も減少する可能性がある。

エナジー・コミュニティーが発表したCBAM対応状況レポートによれば、西バルカン諸国の脱炭素化の取り組みはおおむね停滞しているという。

アナリストらは、再生可能エネルギー投資の不足と、老朽化した石炭火力発電所への政府補助金が続いているためにグリーン移行が阻害されており、各国政府はCBAMの先送りや適用除外を模索するようになっていると話している。

だが適用除外のためには、クリーンエネルギーへの大規模投資や各国独自のカーボンプライシングの導入などの条件を課されることになり、各国がCBAM施行前に改革を実施するのは困難な状況だ。

CEEバンクウォッチで欧州南東担当エネルギー顧問を務めるピッパ・ギャロップ氏は、トムソン・ロイター財団に対し、「きちんと準備ができている国は1つもない」と述べた。

ただしギャロップ氏は、西バルカン諸国が「最悪の影響を免れたい」と考えるなら脱炭素化を進めざるをえないという認識は広がっていると語る。

<影響に備える>

石炭からクリーンエネルギーに移行するには、社会的・経済的に大きなコストがかかる。

クリーンエネルギーを専門とする独シンクタンク「アゴラ・エネルギーウェンデ」は、西バルカン諸国のエネルギー移行費用を400億ユーロ前後と見積もっている。この数字には、石炭産業の労働者約3万人の再訓練コストや解雇手当は含まれていない。

ブリュッセルを本拠とするシンクタンクCEPSでエネルギー政策を担当するクリスチャン・イーゲンホーファー上級研究員は、CBAMによる炭素税は、西バルカン諸国に脱炭素化のインセンティブを与えるよりも、必要な資金を奪うことによりグリーン移行を困難にしてしまう恐れがある、と指摘する。

「各国に必要なのはインセンティブではなく、財源だ」とイーゲンホーファー氏は言う。

EU各国には、クリーンエネルギーへの移行による工場閉鎖などの経済的悪影響から労働者・地域を保護することを意図した175億ユーロ規模の「公正移行基金」がある。だが、西バルカン諸国には、そうした専用の基金はない。

西バルカン諸国のEU加盟を支援するため、EUではグリーン移行とデジタル移行に向けた最大90億ユーロの資金援助を用意している。これに加えて、エネルギーセクターの現代化に限らず、EU加盟のために必要な改革全般を支えるため、最大200億ユーロを「西バルカン保障ファシリティー」を介して投資している。

だがCEEバンクウォッチのギャロップ氏は、こうした資金は公正な移行に必要な投資を賄うには「量的に不十分だ」と語る。

コパック氏は、EUがどの程度の資金を提供するかに関わらず、西バルカン諸国自体が、改革に向けて何らかの勢いを生み出さなければならない、と言う。「恐らく、これはすでにEUうんぬんの問題ではなくなっている」

(翻訳:エァクレーレン)

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