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アングル:第1四半期のマーケットは大波乱、トランプ・トレードが逆回転

2025年03月31日(月)13時43分

ほとんどの投資家が、2025年はトランプ氏が世界最大の経済・金融市場を擁する米国の大統領に返り咲き、マーケットは波乱の展開を迎えるだろうと考えていた。しかし、2025年第1・四半期の動きがここまで激しくなると予測していた向きはほとんどいなかった。1月21日、都内の外為どっとコムのトレーディングルームで撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

[ロンドン 30日 ロイター] - ほとんどの投資家が、2025年はトランプ氏が世界最大の経済・金融市場を擁する米国の大統領に返り咲き、マーケットは波乱の展開を迎えるだろうと考えていた。しかし、2025年第1・四半期の動きがここまで激しくなると予測していた向きはほとんどいなかった。

表面的に見れば世界の株式市場は年初とほぼ同じ水準で、VIX指数のようなボラティリティー指標も新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の期間や金融危機の際に記録したピークにはほど遠い。だが、目を凝らせば個々のセクターの動きが非常に大きいことが見えてくる。

安全資産の代表格である金は、トランプ氏の仕掛けた貿易戦争とドル相場変動の影響を受けて四半期としては1986年以来で最高のパフォーマンスを記録した。一方、ドルの年初来の下落幅は2008年のリーマン・ショック以来の大きさとなっている。

さらに衝撃的なのは「マグニフィセント・セブン(M7)」と呼ばれる米大手ハイテク企業の株式が大きく売り込まれたことだ。長年にわたって投資ポートフォリオの収益源となってきたM7は年初来で時価総額が約2兆ドル分吹き飛び、中国のハイテク銘柄や欧州の防衛関連銘柄に大きく水を空けられている。

マルチアセット運用会社キャンドリアムのニコラス・フォレスト最高投資責任者(CIO)は「トランプ・トレードは完全に逆回転した」と述べ、市場動向の急変ぶりには目を見張るものがあったと振り返った。

1月時点ではトランプ氏の「米国第一主義」政策がインフレを再加速させ、米国の利下げを阻むのが最大のリスクだった。ところが、今では景気後退が最も重要なリスクになっている」という。

こうした変化を背景に140兆ドル規模の世界債券市場は流れが180度転換。米国債は2.7%と堅調なリターンで25年第1・四半期を終える見通しで、利回りは20ベーシスポイント(bp)余り低下した。

ドイツは米国の軍事支援縮小を受けて政府が国防費増強に向けて「債務ブレーキ」を解除するという歴史的な決定を下し、国債利回りが40bp余り上昇した。これは四半期の利回り変動としては2023年以来最大。ドイツと米国の国債相場が逆に動いたのは21年以来初めてだ。

一方、日本は日銀の追加利上げ観測を背景に10年物国債利回りが08年以来の高水準に達した。利回りは足下で1.6%前後。第1・四半期では約50bpの上昇と、四半期として03年以来最大の上昇幅となる見込みだ。

<激動のドル相場>

ドル指数は4%下落し、新興国市場の通貨が久しぶりに輝くチャンスを得た。

トランプ氏がロシアのプーチン大統領との関係を再構築したことでルーブルは35%と驚異的ペースで上昇した。ただし、依然として主要経済圏では経済制裁による大きな制約を受けている。

ウクライナ紛争の終結による恩恵を受けるとみられるポーランド・ズロチやチェコ・コルナもそれぞれ5%余り上昇し、上昇率がトップ圏入りした。またメキシコペソやカナダドルも、関税問題に悩まされながらもプラス圏を維持している。

ステート・ストリート・グローバル・マーケッツのマイケル・メトカーフ氏は「ドルの見通しは今年に入って極めて急速に崩れた。年初に言われていたことを、そのままひっくり返したような展開になっている」と指摘した。

外為市場で最も苦戦しているのはトルコ・リラとインドネシア・ルピアだ。トルコリラはほぼ7%下落しているが、その主因はトルコのエルドアン大統領の政敵と目される野党指導者が先週身柄を拘束されたことだ。

インドネシアのルピアも、政府財政への懸念や軍主導体制への回帰リスクが浮上し、1998年のアジア通貨危機以来の安値で推移している。

代表的な仮想通貨であるビットコインは相変わらず激しい値動きを見せた。トランプ氏が大統領に就任した際には約20%急騰した。その後、仮想通貨を戦略的備蓄にするというトランプ氏の構想が市場の期待を裏切ると下げに転じて約30%下落した。

しかしながら、これに驚いてはいけない。電気自動車(EV)大手の米テスラは株価がトランプ氏の大統領就任時から36%強も下落し、この期間に株価が35%余り上昇したライバルの中国・比亜迪(BYD)と対照的な値動きとなっている。

<金とコーヒー豆は価格上昇>

原油は需給の問題に加え、イスラエルとハマス、ヒズボラとの間の中東停戦協議の影響で乱高下を続けている。しかし、すでに停戦は危機に瀕しているようだ。

金は17%急騰。銅は世界経済への懸念をものともせず、11%上昇した。一方、コーヒー愛好家には厳しい状況で、代表的なアラビカ種は18%上昇と、昨年の同時期と比べて価格がほぼ2倍に達している。これは深刻な干ばつの影響によるものだ。

第2・四半期のマーケットはさらに厳しい展開になる公算が大きい。

トランプ氏は4月2日に世界規模の関税計画の詳細を発表する予定で、投資家にとっての最大の疑問はこの政策が景気後退を引き起こすのかどうかという点にある。

コロンビア・スレッドニードルのグローバル株式部門責任者であるニール・ロブソン氏は、トランプ氏の関税政策によって世界のコモディティーに対する貿易加重平均関税率が現在の2.5%から10%、あるいはそれより大幅に上昇する可能性があると見ている。

こうした動きが世界的な景気後退を引き起こす可能性があることを踏まえた上で第2・四半期について、「大きなリスク回避(局面)に突入するか、あるいは反発に向かうか、いずれかだ」と予想した。

ロイター
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