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アングル:米アパレル産業、大規模な国内回帰に高いハードル

2025年03月16日(日)08時12分

 3月13日、トランプ米大統領の「メイド・イン・USA」のかけ声に押される形で、米国の一部アパレル小売り事業者はTシャツからコート、スーツに至るまで、国内生産を拡大している。写真は米ニュージャージー州ニューアークのワイシャツ工場。5日撮影(2025年 ロイター/Mike Segar)

Arriana McLymore Helen Reid

[ニューアーク(米ニュージャージー州) 13日 ロイター] - トランプ米大統領の「メイド・イン・USA」のかけ声に押される形で、米国の一部アパレル小売り事業者はTシャツからコート、スーツに至るまで、国内生産を拡大している。

ただし供給設備が限られるため、米国へ大々的に生産がシフトする公算は乏しい。また、人件費の高止まりや輸入原材料への関税が存在する以上、米国で作るアパレル製品が割高になるのは避けられないという。

事情に詳しい関係者によると、トランプ氏は11日、ウォルマートを含めた米企業経営トップと面会し、米国で生産活動に従事する企業の法人税率を21%から15%に引き下げると改めて約束した。また輸入品に関税を課す方針を正当化し、関税をさらに強化する可能性にも言及した。

こうした中でニュージャージー州ニューアークに拠点を置くドレスシャツ製造のギャンバート・シャツメーカーズのオーナー兼最高経営責任者(CEO)、ミッチ・ギャンバート氏は「国内に生産拠点を戻すことを検討中のブランドから非常に多くの問い合わせを受けている」と語った。

同社は百貨店チェーン大手ノードストロームの3店舗に木綿織のシャツを卸しているが、ノードストローム側から6月末までに納入先を50店に増やせないかと打診された。

カリフォルニア州で婦人服小売りを手がけるリフォーメーションの幹部キャスリーン・タルボット氏は、トランプ氏の関税政策に対応し、ロサンゼルスのサプライヤーへの発注を増やしているほか、ニューヨーク州やネバダ州への発注を検討するかもしれないと話す。

リフォーメーションは現在、メキシコの6工場から製品を輸入し、オンラインと米国、英国、カナダの50店舗超で販売している。

タルボット氏は、4月にメキシコからの輸入品が関税対象となるため、リフォーメーションは急いでサプライチェーン(供給網)の修正に動かざるを得なくなったと説明した。

しかし、米国アパレル靴協会(AAFA)のスティーブ・ラマー会長は、業界全体でみると米国内生産の増加は緩やかにとどまると予想する。

ラマー氏は人手、必要な技術・知識・経験、原材料、インフラのいずれも衣料品と靴を大量生産する上で足りていないと指摘した。

<労働競争力>

米国人は、中国や他のアジア諸国で製造された安価なアパレル製品を買うのが当たり前になっている。AAFAによると、米国で販売される衣料品と靴の約97%は輸入品だ。輸入アパレル製品は国別で中国製が最も多いが、その比率は過去15年でベトナム製やバングラデシュ製の台頭とともに低下した。

一方、米国の衣料品生産は、各ブランドや小売り事業者が取引先を中国やベトナム、バングラデシュなど販売価格引き下げのために低賃金で労働力を確保できる地域に切り替えた影響で、1990年以降衰退が続いてきた、とマイアミ大学のヤオ・ジン准教授(サプライチェーン管理)は解説する。

准教授は「アパレル産業に関しては米国に戻る雇用はごくわずかだろう。なぜなら米国内の労働には競争力がないからだ」と話す。

ギャンバート氏の100人で操業している工場にとって、事業面で追加発注のもたらす効果は非常に大きい。しかし、工場の生産能力には限りがあるため、新規顧客との取引には慎重にならざるを得ない。

同氏は「操業に過重な負荷をかけ、既存顧客をないがしろにしたくないのは当然だ」と悩ましい気持ちを打ち明けた。

もう1つの問題はボタンやファスナーといった服飾部品がトランプ政権の関税対象になっていることで、米国のそうした服飾部品の最大の輸入先は中国だ。

ギャンバート・シャツメーカーズで販売するシャツのボタンの単価も、米国の中国に対する追加関税発動で18%切り上がった。

ロサンゼルスで靴と皮革品を製造するラ・ラ・ランド・プロダクション・アンド・デザインのアレクサンダー・ザーCEOは、米国内でのスニーカーやランニングシューズの生産に関心を持つ複数のブランドから問い合わせを受けていると述べた。

ザー氏は外部の投資家から1000万ドルを調達し、新たな製造機械を購入して需要拡大に対応しようとしている。

ロサンゼルスの最低時給は17.28ドルと全米トップクラスだが、3Dプリントやランニングシューズの縫い合わせ工程を省ける技術への投資を通じて製品の競争力を維持する方針だ。

それでもザー氏によると、自社工場で製造する靴の大半は、高価格帯もしくは限定品になる公算が大きい。

ラ・ラ・ランドと取引しているスポーツ用品大手アディダスの広報担当者は、サプライチェーンを変更する計画はないと語り、ラ・ラ・ランドはアディダスの特別限定商品を生産することになると付け加えた。

全米繊維団体協議会のキム・グラス会長は、トランプ氏が中国からのアパレル輸入品に追加関税を課すことに賛成しているが、メキシコとカナダへの関税は業界に痛手を与えると主張する。業界は綿やウール、糸製品、その他服飾部品の調達で両国に依存しているためだ。

グラス氏は、関税政策を巡る混乱もマイナスで「米国内の製造業者が成長し、投資するためには長期的な確実性が欠かせない」と訴えた。

ロイター
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