アングル:デフレ下の中国で値引き過熱化、ディスカウント店が人気

中国・北京市の金融街に程近い場所に位置する量販店の責任者、レオ・リューさんはある日、タイムセールで大幅値引きを連呼した。写真は北京のディスカウント店のタイムセールの様子。2月27日撮影(2025年 ロイター/Tingshu Wang)
Liangping Gao Marius Zaharia
[北京/香港 10日 ロイター] - 中国・北京市の金融街に程近い場所に位置する量販店の責任者、レオ・リューさんはある日、タイムセールで大幅値引きを連呼し、1着239元(33ドル)の綿ジャケットを、10分の1以下の20元まで下げてようやく売りさばくことができた。だが女性用下着は39元でも結局買い手は見つからず、無料で手放した。
こうした現象は、デフレに陥った中国経済の縮図と言える。
タイムセールは1日4回。リューさんは「在庫増加圧力を減らすために行っている。私たちの経営モデルは、利益が少なくても商品を素早く回転させる手法だ」と語り、一部の商品では赤字が出ていると認めた。
先行きの雇用や収入に不安を抱える中国の消費者による利用が増える一方となっているのが、ディスカウント店だ。
ただ複数のアナリストは、ディスカウント店の繁盛は新たなデフレ圧力を生み出しており、1990年代に日本が経験したようにこれらの店の人気が高まるにつれ、他の小売業者が犠牲になる形で、経済成長の足かせになりかねないと警告する。
INGのチーフ中華圏エコノミスト、リン・ソン氏は「買い物において全般的なコストパフォーマンス重視の傾向が強まることは、デフレ圧力に影響を与える。このような価格競争激化は、より伝統的な小売りモデルにも重圧を加える可能性が高い」と指摘した。
9日に発表された中国の2月消費者物価指数(CPI)は前年比0.7%の低下で予想以上の落ち込みを記録。生産者物価指数(PPI)は2.2%低下と、2022年9月以来マイナスが続く。
こうした中で価格戦争は、3元の朝食メニューを掲げる飲食店から、一部で1万ドル未満に販売価格を引き下げた電気自動車(EV)のBYD(比亜迪)まで国内のあらゆるセクターで目にすることができる。
S&Pグローバル・レーティングスのチーフ・アジア・エコノミスト、ルイス・クイジス氏は「企業戦略は利益より市場シェアの確保を優先しているケースが少なくないようだ」と述べ、市場で生き残るために誰もが利益を度外視して値下げに動くという事態になろうとしているとの見方を示した。
<縮む消費>
消費者の財布のひもも固い。
ハイテク企業で財務監査をしているリリー・リューさん(34)は、自身の稼ぎが新型コロナウイルスのパンデミック前よりも減ったと打ち明け「私たちのように金銭的にやや苦しくなった人々は、当然ディスカウント店に立ち寄るだろう」と話した。
「いつ仕事を失ってもおかしくないと感じている。今日は働けても、明日には解雇されるかもしれない」
そのため旅行への支出を減らし、ほとんどの週末は外食せずに自宅で過ごすだけでなく、買い物はセール中だけにしているという。
学生のビビアン・リューさんは、友人たちとウィンドーショッピングを楽しむが、実際にはほとんど買い物をしないと述べた。
2年前、生物学の学位を取得して大学を卒業したものの就職できず、学生を続けながら生活のためにアルバイトをしている。
中国では若者の失業率が15.7%に達していることも消費の足かせとなっている。
「使えるお金は多くない。毎月少しずつ貯金している。労働市場が今後どうなるか全く分からず、それが少し怖い」とビビアン・リューさんは話した。