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アングル:中国石油大手、EV時代に向け充電施設事業に注力 設備過剰も

2024年04月08日(月)07時13分

 北京郊外・小武基の目立たない脇道を入った場所に、国営石油大手の中国石油化工集団(シノペック) が昨年12月に開設した電気自動車(EV)充電ステーションがある。写真は2月、北京市内で撮影(2024年 ロイター/Florence Lo)

Andrew Hayley

[北京 2日 ロイター] - 北京郊外・小武基の目立たない脇道を入った場所に、国営石油大手の中国石油化工集団(シノペック) が昨年12月に開設した電気自動車(EV)充電ステーションがある。この場所を見れば、「ポストガソリン車時代」が迫る中国の将来の姿を垣間見ることができる。

同施設には、EV用の急速充電器70基のほか、コーヒーマシンやマッサージチェアが完備されている。バッテリー搭載車が主流になる時代に対応しようと、同社が中国全土で建設を進める数千カ所のうちの一つだ。

世界最大の自動車市場である中国でのEV販売は、今年販売される約2300万台の自動車のうち40%を占めるとみられている。一方で、中国のガソリン需要は2025年までにピークを迎え、45年には半減する可能性もあると予測されており、同国の石油精製・販売最大手であるシノペックと中国石油天然ガス(ペトロチャイナ) は経営戦略の転換を迫られている。

シノペックとペトロチャイナは合計で、国内10万カ所以上あるガソリンスタンドの約50%を運営しており、その収益の半分近くを燃料販売が占めている。

「両社は失速の予兆を目の当たりにしている。だからこそ、低炭素経済に合わせたサービスステーションの設置に取り組んでいる」と、米コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターの研究者、エリカ・ダウンズ氏は指摘する。

英シェルや仏トタルエナジーズ など中国以外の石油大手企業も、小規模だがEV導入が進むノルウェーなどの市場で得た教訓を、規模を拡大して中国でも生かせるよう模索している。

ただ、中国の公共EV充電セクターは市場の細分化や設備過剰、使用率の低さや損失に悩まされ、ビジネスモデルの転換を目指す石油会社は幾つもの課題を抱えている。

最近のある平日の午後、小武基バッテリー充電スタンドでは70台ある充電器のうち54台が空き状態だった。タクシー運転手が利用客のほとんどを占め、その一人は、ここでの充電スピードは速いが、自宅で充電するよりも少し高くつくと語った。

2023年末時点で2万1000カ所の充電ポイントを運営するシノペックは今年、複合エネルギーステーション網の建設のため、流通部門の予算を前年から17.2%増の184億元(約3860億円)に拡充した。同社は25年までに5000カ所の充電施設を新設する計画を進めている。

ペトロチャイナは、昨年9月に買収した子会社のポテビオ・ニューエナジーを通して2万8000カ所の充電ポイントを運営している。ペトロチャイナの提出書類によると同社は2024年、石油やガス、水素、電力の提供が可能な総合施設に注力し、マーケティングや流通への投資を49.8%増やし70億元とする計画を発表した。今年はさらに1000カ所のEVバッテリー交換ステーションを建設することを目指している。

中国国内に273万カ所あるEV充電施設のうち、シノペックとペトロチャイナの市場シェアはそれぞれおよそ1%だ。

流通戦略に関してペトロチャイナに追加コメントを求めたが、返答は得られなかった。シノペックもコメントを差し控えた。

<設備過剰問題>

中国のEV所有者の多くは、自宅に併設された設備で充電することが可能だ。つまり、国内860万か所の充電ポイントのうち68%は、急速充電式ではない私用設備ということになる。

完全電気自動車が路上を走る自動車の約21%、新規自動車販売の90%以上を占めるノルウェーでは、自宅充電設備の使用頻度が高く、公共充電施設の使用率には大きなばらつきが見られるとの指摘が複数の充電設備運営者から上がる。

ノルウェー最大の公共急速充電システムを運営するサークルKは、同事業は収益性があると述べた一方、同国のEV普及率の伸びが公共充電施設の増加率をはるかに上回っていた点は中国と異なるとも言及した。

中国乗用車協会(CPCA)のデータによると、国内に設置された充電器の数は22年下半期時点で、電気自動車7台につき1基という比率だ。米国では14.6台、欧州では17.6台につき1基という割合だった。

中国のEV充電市場は非常に細分化されている。中国電気自動車充電インフラ促進連盟(EVCIPA)によれば、上位5社が市場シェアの65.2%を占める。

少ないEV利用者を巡って大規模な競争が行われているため、多くの充電地点で使用率が少なく、1日のほとんどは使われていない状態に陥っている。

エネルギー調査会社ライスタッド・エナジーの推定では、中国最大手スターチャージが運営する充電設備の収益でも1日あたり9.58ー9.94ドル(約1450─1500円)程度、国内2位で青島TGOOD 子会社のTELDで12.77ー13.25ドルだという。

TELDは、2022年の損失額は2600万元だったと公表した。また、中国EV市場は成長を続けているとして、充電器の使用率は増加するとの見込みを示した。

スターチャージはコメントの要請に応じなかった。

他方、より小規模かつ地理的集中が見られる海外大手の充電設備では、より良好な収益を挙げている例も見られる。

国営・中国長江三峡集団(CTG)との合弁で1万10000カ所の充電ポイントを運営するトタルエナジーズ・チャイナのマーケティング・サービス部門副部長のアン・ソランジュ・ルヌアール氏は、「使用率は中国平均水準の2倍以上だ」と言う。

「洗車や飲食の提供、休憩エリアなど、付加サービスの拡充から着手した。顧客体験を向上させ、eモビリティという観点でのニーズに応えるためだ」

シェルが運営するEV充電施設の利用率も約25%と、従来車のガソリンスタンド利用率の2倍近くに上る。同社は独立型充電ステーションを中国国内の800カ所で運営しており、昨年9月には南部広東省・深セン市で世界最大規模の充電施設を開業させている。

ライスタッド・エナジーのシニアアナリスト、アビシェーク・ムラリ氏は、EV充電事業で利益を生むのは世界中どこであれ厳しいと指摘。中国のEV充電網で事業者の統廃合が進めば、送配電事業会社が最大の勝者になる可能性があると予測した。

ロイター
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