コラム

世界のジョーク界を変えた「Abe」

2020年10月02日(金)10時55分

ILLUSTRATION BY AYAKO OCHI FOR NEWSWEEK JAPAN

<かつて、日本の首相に関するこんなジョークがはやった。「今の日本の首相は、なんという名前だったかな?」――>

【難問】
米ロ首脳会談の際、話題が日本に及んだ。

アメリカの大統領が言った。

「ところで今の日本の首相は、なんという名前だったかな?」すると周囲の側近全員が首をひねり、黙り込んでしまった。

するとロシアの大統領が笑いながら言った。

「みんな、しっかりしてくれよ。そんなことも分からないのかね。それでは日本に対してあまりに失礼ではないか」

アメリカの大統領が答えた。

「これは申し訳ない。本当に恥ずべきことです。反省しましょう。それで、答えは?」

ロシアの大統領は、自慢げな表情を浮かべながらこう言った。

「アルベルト・フジモリだよ」

◇ ◇ ◇

戦後の日本は経済大国としての道を歩んだが、国際政治の世界では十分な存在感を発揮することができなかった。平成に入るとその傾向はさらに顕著となり、コロコロと代わる総理大臣の顔と名前は、もはや「世界の謎」に。

平成元年(1989年)に発足した宇野宗佑内閣は69日、平成6年(1994年)発足の羽田孜内閣は64日で崩壊。海外の人々どころか、日本人でさえ「今の首相、誰?」というような状況が繰り返された。

平成21年(2009年)に民主党政権が誕生してからも、内閣はいずれも短命。弱い野球チームの苦しい投手リレーのようであった。

結果、世界のジョークの中に「日本の首相」が出てくるようなことはほぼゼロであった。そんな中で、世界的に定着していたのが冒頭のジョークである。

ジョーク界を変えた「アベ」

そんな状況を一変させたのが、安倍晋三内閣であった。当初は英語読みで「アベ」ではなく「エイブ」などと間違えて呼ばれることもあったが、第2次安倍政権は実に7年8カ月という長期に及び、「アベ」の名前は日本の政治家としては珍しく世界的に知られる存在となった。「アベノミクス」という造語も浸透した。

2015年4月の訪米時には、バラク・オバマ大統領(当時)主催の公式夕食会に出席。スピーチに立った安倍首相は「野心的な副大統領が大統領を辞任に追い込む」という内容の米ドラマ『ハウス・オブ・カード/野望の会談』に言及した上で、「私はこのドラマを(麻生太郎)副総理には見せないようにしようと思っている」と述べて会場の爆笑をさらった。

「日本の政治家はユーモアがない」というイメージを覆した。

プロフィール
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然

ビジネス

米連邦地裁、マスク氏の棄却請求退ける ツイッター株

ビジネス

中国国営メディアがパナマ港湾売却非難を一時投稿、ハ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story