コラム

全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く

2024年08月20日(火)15時58分
全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く

ネタニヤフはガザ停戦に踏み切るのか NIR ELIASーPOOLーREUTERS

<戦闘が始まれば、イランおよびその代理勢力であるヒズボラやハマス、フーシ派などと、イスラエル・アメリカの全面戦争に発展する恐れも>

イランの最高指導者アリ・ハメネイがイスラエルに「厳しい罰」を与えると公言している。7月31日にイスラエルがイランの首都テヘランの政府関連施設で親イランのイスラム組織ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤを暗殺したことに対して報復を行うというのだ。

イスラエルは、昨年10月7日にハマスがイスラエルを攻撃して約1200人を殺害したことを受けて、ハマス幹部の全面的な掃討を誓っていた。


しかし、ハニヤ暗殺は、イスラエルとイランの間で続いてきた応酬の一環という側面もある。イランがハマスをかくまい、戦闘員を訓練し、資金援助していることを受けて、イスラエルは今回の行動に出たのだろう。

ハニヤの暗殺は、ただでさえ混沌状態にある中東情勢をいっそう不安定化させ、中東全域規模の戦争が起きる現実味を強めたと言える。

そのような戦争が始まれば、イランおよびイランの代理勢力──ヒズボラ、ハマス、フーシ派、ガザ地区の「イスラム聖戦」、イラクの親イラン勢力など──と、イスラエル、そしておそらくはアメリカが戦うことになる。

そして、少なくともシリアとレバノンも戦争に巻き込まれることになるだろう。

ハニヤ暗殺にイランがなんらかの報復を行うことはほぼ間違いない。しかし皮肉なことに、イランがどのような行動を取るかを決めるのは、イランの宿敵であるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相だ。

もしネタニヤフがガザにおける停戦でハマスと合意すれば、イランはイスラエルおよびイスラエルの権益に対する慎重な秘密工作を行う道を選ぶ可能性が高い。

一方、ネタニヤフがガザでの戦闘を継続するのであれば、イランは近くイスラエルに対して大がかりな軍事攻撃を行うだろう。その際は、ヒズボラなどの代理勢力を使って攻撃させる可能性が高い。

イスラエルの軍や情報機関の上層部では停戦を主張する声が強まっているが、ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景には、自身の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある。

イランが大規模な軍事攻撃を行えば、イスラエルとレバノン、そしておそらくはシリアとイランも、軍事、経済、政治、社会に壊滅的な打撃を被るだろう。

このほかに、イランは核開発計画を加速させるという選択肢もある。これは、挑発的ではあるが、直ちにイスラエルに直接的な行動を取るものではない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 6
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story