コラム

なぜ今また「武漢ウイルス研究所説」がアメリカで再燃しているのか?

2023年03月06日(月)12時39分
武漢ウイルス研究所

共和党が政敵叩きに悪用?(武漢ウイルス研究所) Thomas Peter-REUTERS

<きっかけは、2月26日のウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事。アメリカで新型コロナウイルスの発生源が「武漢ウイルス研究所」であるという報道が過熱する背景とは>

気球の次はウイルスだ。この数日、新型コロナウイルスの発生源をめぐる報道が過熱している。始まりは、2月26日のウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事だった。

米エネルギー省が中国・武漢のウイルス研究所をウイルスの発生源と見なしているらしいと、保守的な論調の同紙が報じたのである。

もっとも、このニュースと先頃の中国の偵察気球問題が大騒動に発展したのは、共和党が敵をたたく道具として利用したからにすぎない。

共和党の政治家たちはこの2つのニュースを材料に、バイデン大統領と民主党、「主流派」のメディア、科学者、右派の陰謀論者たちが言うところの「ディープステート(国家内国家)」(連邦政府と公務員のこと)、そして中国への批判を強めている。

共和党は敵対者たちに無能で嘘つきのエリートというレッテルを貼り、中国との共謀者もしくは中国の擁護者だと決め付けているのだ。

共和党が騒ぎ立てたことでウイルス問題と気球問題が世界的な大ニュースになり、アメリカと中国の政府は、両国間の緊張がエスカレートするのを防ぐことがいっそう難しくなってしまった。

報道によると、エネルギー省はこれまでウイルスの発生源を不明としていたが、分析評価を微修正して、武漢のウイルス研究所の事故により流出したという「確信度の低い」評価に変更した。

しかし、このウイルスが中国の生物兵器として開発されたものではないという点で、アメリカの全ての情報機関の見解が強く一致している。

アメリカの情報機関は、新型コロナウイルスの発生源について調査を続けてきた。主な可能性は2つある。1つの可能性は、自然界の動物から人間に感染したというもの。もう1つの可能性は、武漢ウイルス研究所から流出したというものだ。

2021年の時点で、FBIは、研究所流出説を「中程度の確信度」で支持していたが、国家情報会議(NIC)と4つの情報機関は、自然界の動物から人間に感染したという「確信度の低い」評価に傾斜していた。

一方、エネルギー省など3つの機関は、いずれかの説を支持するに至らなかったとしていた。

エネルギー省は、新たな分析により(つまり新たな情報に基づいているわけではない)評価を微修正したが、ほかの情報機関の評価は変わっていない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、対中関税引き下げ検討か 半減案との情報 財務長

ワールド

OPECプラス8カ国、6月も生産拡大提案へ 実現な

ビジネス

米ボーイング、1-3月期の損失予想ほど膨らまず 航

ビジネス

米新築住宅販売、3月7.4%増 ローン金利低下で予
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story