力の誇示を控えてきたインドに変化...国民は自信を強め、「大国」への野心を見せ始めた
ムンバイで建設が進む超高層ビル群 DHIRAJ SINGHーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<伝統的な生活と現代的な都市開発が同居するインドは成長のエネルギーに満ち、政府も国際舞台で積極的な役割を果たす姿勢を明確にしている>
窓の外のガンジス川で死体が燃やされ、灰色の煙が立ち上る。人生のはかなさと、無限に続く生と死のサイクル(輪廻)を象徴する光景だ。隣の村に続く小道に、神聖な動物とされる牛がゆっくりと歩いている。
昨夜、旅行で訪れているインド・ガンジス川の河畔で行われた「火の儀式」に集まった10万人の群衆の中で、私はたった2人の西洋人の1人だった。聖職者が火の付いた杖を振り、大群衆が唱和するのを見学した後、レストランで食事をしていると、ガイドが夕食を少し残して外にいる牛にやった。道の至る所に牛のふんがあるが、神聖な生命循環の一部なので、誰も片付けない。
まるで紀元前500年そのままだが、同時にインドではムンバイからアーメダバードやデリー、さらに北のヒマラヤへと、巨大な高速道路網が建設中。モダンな超高層ビルが立ち並び、その内部で多くの研究者や金融関係者が働いている。私が会った政府当局者は、インドがグーグルの次の検索システムを開発する可能性や、世界の紛争地域に対する初の本格的な武器輸出など、さまざまな話題を口にした。
私は行く先々で、世界の大国に浮上しつつあるインドの勢いを感じた。変革が始まったのはナレンドラ・モディが首相に就任した2014年だ。与党となったインド人民党(BJP)が長年続いた社会主義型の経済政策を否定。英植民地から独立後、不安の中で生きてきた国民の自信を高めた。
独立以来75年間、インドは欧米とソ連のどちらの陣営にも属さない「非同盟」を貫いてきた。そのおかげで自国の都合に合わせて両陣営を使い分けることができた。貧困、低識字率、インフラの欠如、工業生産力の低さといった深刻な課題を抱えるインドにとっては適切な政策だった。
国力の増大に連れて姿勢の変化が
また、当時の指導者たちは政治的・経済的リーダーシップを握ろうとするアメリカの圧力を、200年に及ぶ植民地支配から逃れたばかりのインドに対する新たな従属の強要と見なしていた。その意味でも、非同盟政策はインドに合っていた。
だが国力の増大につれて、力の誇示に抑制的なインドの姿勢は変化しつつある。9月29日には、アルメニアとの間で約2億5000万ドルの武器輸出協定に調印。他国の紛争への関与と、国際政治の舞台で積極的な役割を果たそうとする姿勢を明確にした。この動きはアルメニアと対立するアゼルバイジャンへのパキスタンとトルコの支援を意識した対抗措置でもある。さらにインドは、クアッド(日米豪印戦略対話)にも積極的に関与している。
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