コラム

力の誇示を控えてきたインドに変化...国民は自信を強め、「大国」への野心を見せ始めた

2022年10月11日(火)12時27分
ムンバイ超高層ビル群

ムンバイで建設が進む超高層ビル群 DHIRAJ SINGHーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<伝統的な生活と現代的な都市開発が同居するインドは成長のエネルギーに満ち、政府も国際舞台で積極的な役割を果たす姿勢を明確にしている>

窓の外のガンジス川で死体が燃やされ、灰色の煙が立ち上る。人生のはかなさと、無限に続く生と死のサイクル(輪廻)を象徴する光景だ。隣の村に続く小道に、神聖な動物とされる牛がゆっくりと歩いている。

昨夜、旅行で訪れているインド・ガンジス川の河畔で行われた「火の儀式」に集まった10万人の群衆の中で、私はたった2人の西洋人の1人だった。聖職者が火の付いた杖を振り、大群衆が唱和するのを見学した後、レストランで食事をしていると、ガイドが夕食を少し残して外にいる牛にやった。道の至る所に牛のふんがあるが、神聖な生命循環の一部なので、誰も片付けない。

まるで紀元前500年そのままだが、同時にインドではムンバイからアーメダバードやデリー、さらに北のヒマラヤへと、巨大な高速道路網が建設中。モダンな超高層ビルが立ち並び、その内部で多くの研究者や金融関係者が働いている。私が会った政府当局者は、インドがグーグルの次の検索システムを開発する可能性や、世界の紛争地域に対する初の本格的な武器輸出など、さまざまな話題を口にした。

私は行く先々で、世界の大国に浮上しつつあるインドの勢いを感じた。変革が始まったのはナレンドラ・モディが首相に就任した2014年だ。与党となったインド人民党(BJP)が長年続いた社会主義型の経済政策を否定。英植民地から独立後、不安の中で生きてきた国民の自信を高めた。

独立以来75年間、インドは欧米とソ連のどちらの陣営にも属さない「非同盟」を貫いてきた。そのおかげで自国の都合に合わせて両陣営を使い分けることができた。貧困、低識字率、インフラの欠如、工業生産力の低さといった深刻な課題を抱えるインドにとっては適切な政策だった。

国力の増大に連れて姿勢の変化が

また、当時の指導者たちは政治的・経済的リーダーシップを握ろうとするアメリカの圧力を、200年に及ぶ植民地支配から逃れたばかりのインドに対する新たな従属の強要と見なしていた。その意味でも、非同盟政策はインドに合っていた。

だが国力の増大につれて、力の誇示に抑制的なインドの姿勢は変化しつつある。9月29日には、アルメニアとの間で約2億5000万ドルの武器輸出協定に調印。他国の紛争への関与と、国際政治の舞台で積極的な役割を果たそうとする姿勢を明確にした。この動きはアルメニアと対立するアゼルバイジャンへのパキスタンとトルコの支援を意識した対抗措置でもある。さらにインドは、クアッド(日米豪印戦略対話)にも積極的に関与している。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税、国内企業に痛手な

ワールド

原油先物5週間ぶり高値、トランプ氏のロシア・イラン

ビジネス

トランプ関税で目先景気後退入り想定せず=IMF専務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story