ドゥーギン娘の暗殺、いつもの「雑な自作自演」から見えるロシア諜報機関の対立
ロシア当局は迅速に犯人を特定したが(現場を調べる捜査員) INVESTIGATIVE COMMITTEE OF RUSSIAーHANDOUTーREUTERS
<犯行からわずか数時間で犯人と身分証が判明した、謎の暗殺事件。2つの諜報機関の対立とプーチンの寵愛をめぐる争い、ウクライナ侵攻でしくじった責任のなすりつけ合いなど、泥沼の背後>
わずか数時間で、ロシア捜査当局は驚くべき法科学能力を獲得したらしい。
プーチン体制を支える極右思想家、アレクサンドル・ドゥーギンの娘ダリヤ・ドゥーギナが、モスクワ郊外で起きた自動車爆弾の爆発で死亡したのは8月20日。事件のほぼ直後、ロシア連邦保安局(FSB)はウクライナ情報機関職員のナタリア・ボブクを犯人と特定した。
FSBが提出した捜査資料には、ボブクがウクライナ南東部マリウポリの製鉄所で戦った「ネオ・ナチ」集団、アゾフ大隊に所属していたことを示す軍の身分証明書も含まれている。
当局の報告では、犯行に使用された爆発物は800キロに上った。当然ながら、ウクライナ政府はこれらの主張を虚偽として退け、ロシアの偽情報キャンペーンだと非難している。
犯行の標的はドゥーギンだった可能性がある。事件当時、父娘はそろって出席したイベントから帰宅途中で、ドゥーギナが父親の車を運転し、ドゥーギンは後続の車に乗っていた。しかし2人のどちらであれ、ウクライナが殺害したがるとは考えにくい。
ドゥーギンが唱えるユーラシア主義は、衰退するアメリカと「大ロシア」の対立は存在論的に不可避であり、ウクライナはCIAがつくり出した人工国家だというプーチン大統領の言説の基盤になっている。
だがドゥーギンが影響力を持ったのは20年も前で、娘はテレビ映えする御用ジャーナリストにすぎなかった。両者共に米英の制裁対象になっているが、いずれもロシアの権力構造の重要人物ではない。
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ロシアにとって腹立たしい「反証」もある。アゾフ大隊に女性隊員は存在しない。爆弾が仕掛けられた現場とされる駐車場は政府の管理下にあり、複数の検問所が設置されている。
だがドゥーギン父娘が出席したイベントの2週間前から、駐車場の監視カメラはオフライン状態になっていた。
FSBはオフになっていることを把握していたはずだが、外国の情報機関員は監視カメラにアクセスすることも難しいだろう。厳重に警備された駐車場で、ボブクが誰にも気付かれず、単独で800キロもの爆発物を仕掛けたとは信じ難い。
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