コラム

バイデンを苦しめる「三重苦」、トランプ再出馬なら「南北戦争」以来の危機に

2022年02月15日(火)21時05分
トランプ前大統領

支持者にMAGAハットを投げるトランプ(1月15日、アリゾナ州) MARIO TAMA/GETTY IMAGES

<コロナによる社会的制約とインフレへの不満は現職大統領バイデンに向く。トランプの動き次第では全米で暴力事件が多発する恐れも十分ある>

大きさ0.1マイクロメートルのウイルス、加速する7.5%のインフレ、政権与党に対する有権者の反射的反対票──おそらくこの3つが2022年11月の米中間選挙を決定付け、24年大統領選の流れを形作ることになる。

いずれも中間選挙では民主党にとって逆風となり、バイデン米大統領の再選見通しを低下させ、トランプ前大統領の出馬を左右するはずだ。民主党が議会の多数派を守り、24年にバイデンが勝つ可能性はまだあるが、そのためには有権者の経済不安と、2年以上続くコロナ禍の社会的制約に対する不満を和らげる必要がありそうだ。

アメリカでは新型コロナの死者が累計100万人に迫り、今も1日平均2000人以上が亡くなっている。だが11月の中間選挙に影響を与え、民主党の現職議員を苦しめるのは、ウイルスが日常生活にもたらす「ゆがみ」だ。多くのアメリカ人はコロナ禍の社会的制約に疲れ果て、普通の生活に戻ることを強く望んでいる。

特に不満が大きいのはマスクの着用義務だが、米疾病対策センター(CDC)は「公共の場の屋内での着用」を推奨し続けている。そのため有権者は、行政の責任者であるバイデンに不満の矛先を向けがちだ。

有権者にとってさらに問題なのは、コロナ禍の制約が経済を大きくゆがめていることだ。サプライチェーンの混乱に悩む企業は全体の50~60%。例えば筆者の車は部品が届かないため、昨年10月から修理工場に入ったままだ。

さらにコロナ禍の経済的苦境を緩和する目的で政府が支出した補助金による過度の経済刺激が加わり、物価は急上昇している。ガソリンは40%、電気は10.7%の値上げ。平均的世帯の生活費は対前年比で月276ドル増えている。

有権者は「財布に投票する」傾向が

コロナ禍では雇用主が働き手を見つけるのも困難だ。私の近所の薬局は人手不足のため、平日は昼食時間に、週末は完全に閉店している。

有権者は「財布に投票する」傾向がある。自分が感じる経済的ストレスの責任を現職に負わせようとするのだ。それに「現職の呪い」もある。中間選挙では大統領の与党が必ずと言っていいほど議席を減らす。

さらに19州(大半が共和党優位)では、民主党支持者が多数の黒人が住む地域で投票権を制限する34の法律が成立している。もともとアメリカでは、白人と保守派が多い地方の選挙区が相対的に優遇されてきた。投票制限法はこれをさらに強化するものだ。

人々の社会・経済的不安が解消しなければ、トランプに追い風が吹くだろう。世論調査によると、トランプが24年大統領選に出馬すれば、共和党の大統領候補として圧倒的支持を集める見込みだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、米との対話継続 ウクライナ巡る協議「複雑」

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story