コラム

ワクチン接種で分かった、バイデン政権でよみがえったアメリカ

2021年03月10日(水)18時20分

接種初日の1月18日、ジレット・スタジアムに集まった人々 Jessica Rinald-The Boston Globe/GETTY IMAGES

<トランプ政権は全くの無計画だったが、バイデン政権で接種は急ピッチで進んでいる>

84歳の義母は今年2月、米プロフットボールNFLの地元チーム、ニューイングランド・ペイトリオッツの本拠地である6万人収容のジレット・スタジアムを初めて訪れた。といっても、試合はなく、フィールドは雪に覆われていた。義母は緊張していた。ここで新型コロナウイルスワクチンの接種の1回目を受けるからだ。

私が住むマサチューセッツ州の計画では、義母はワクチン接種の対象者だ。バイデン米政権は政権発足後最初の100日間で1億回という大規模なワクチン接種プログラムを打ち出している。

トランプ前政権はワクチン接種について、全くの無計画だった。バイデン大統領が就任した1月20日の時点で、新型コロナウイルスの死者は1日当たり4000人以上、累計で40万人を超えていた。バイデンは就任初日から連邦政府の力を動員してウイルス対策に本腰を入れ、山師のやぶ医者や無能な娘婿ではなく(米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長のような)専門家に発言権を与え、米軍を動員してワクチンの配布と接種を支援した。

マサチューセッツ州では優先順位とリスクに応じて接種を受ける。フェーズ1(2020年12月~21年2月)では、まずコロナウイルス感染者を治療する医療従事者が対象で、次に他の医療従事者。フェーズ2(2月~3月)では、75歳以上の高齢者、次いで65歳以上の高齢者と高リスクの人々の介護担当者が接種対象という具合だ。

供給不足や流通の問題もあったが

スタジアムの広大な駐車場に設置された拡声器が、指定された時間に適切な入り口に向かうよう誘導していた。係員がエスカレーターの前から接種スペースまで続く長い行列にマスクを配り、互いに2メートルの距離を保つよう指示を出す。接種会場では、ずらりと並んだテーブルの前で担当者がワクチンを打ち、データを記録していた。

かかった時間は計30分ほど。義母と妻、私は、4年ぶりに見た有能で真剣で思いやりのある政府の姿に勇気づけられた。

ワクチン接種プログラムの開始からおよそ2カ月。供給不足や流通の問題もあったが、国民の16%以上が1回目の、8%以上が2回目の接種を受けた(費用は政府の負担)。今では当初の目標を超える1日当たたり平均170万回の接種が行われている。

それでも公衆衛生の専門家は、年末までにコロナ以前の社会生活に戻り始めるのは無理だろうと警告している。だが共和党が州政府を握るテキサス州やミシシッピ州は、既に感染防止策の打ち切りに動いている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米11月ISM非製造業総合指数52.1に低下、価格

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story