コラム

トランプ後の共和党とQアノン、アメリカのファシズム的未来

2021年01月18日(月)06時40分

警察が完全に不意を突かれ、議事堂への暴徒の襲撃に対処する計画を立てていなかったとは考えにくい。

ジョー・バイデン次期大統領の就任式前の期間、アメリカでは誰もが首都での暴力の危険性を議論していた。ワシントン市長は不測の事態に備え、数日前に州兵を招集していた。つまり、トランプ支持派による議事堂襲撃計画は周知の事実だった。

連邦議会議事堂の警備を担当する議会警察(USCP)は、襲撃や暴動から議事堂を守る計画を立てるのが唯一の仕事だ。

連邦政府で数十年働いた筆者の経験でも、想定し得る全ての脅威や攻撃にどう対応するかを全ての建物と職場で計画し、訓練を行っていた。ところが議事堂を占拠した暴徒は、当局がようやく態勢を整えるまでの4時間、自由に動き回っていた。

もっとも、議会が暴徒に蹂躙されるような大惨事の原因は、悪意ある陰謀ではなく組織的無能の結果であることが多い。筆者も何度となく経験したことだ。

magSR20210118trumpsinsurrection-2.jpg

1月6日、ワシントンの議会議事堂で警察官に取り押さえられたトランプ支持者 SHANNON STAPLETON-REUTERS

連邦議会の敷地の警護を任された600人の警官は、暴力的な無数のデモ隊による襲撃に対処する準備ができていなかった。議会警察の責任者は無計画のまま、現場の警官を置き去りにした。

だが賢明なことに、警察は武力の行使は避ける決意を固めていたようだ。武力行使は危険なデモを血の海に変え、アメリカ民主主義の中心たる議事堂の階段や廊下で数十人以上が命を落とす危険性があった。

国防総省はこの日のデモを見越して招集された300人の州兵の役割を交通整理などの「非対立的」な仕事に限定し、武装を禁止した。6カ月前、ホワイトハウス前で行われたBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動のデモに対する行き過ぎた対応の二の舞いを避けたかったのだろう。

magSR20210118trumpsinsurrection-3.jpg

2020年6月にワシントンで警察に連行されるBLM運動のデモ参加者 LEAH MILLIS-REUTERS

南北戦争以降で最悪の危機

そのため警官たちは、自分たちだけで暴徒と対峙する羽目に陥り、観光客を誘導するためのバリケード以外に何もない状態で襲撃に対処していた。

暴徒は1人の警察官を消火器で殴りつけ、殴られた警官はこのときの負傷が原因で死亡した。暴徒の1人は襲撃の際に射殺され、当局が4時間以上たって治安を取り戻すまでに、さらに3人が命を落とした。

賢明な自制心のためか、それとも内心でトランプ支持派に共感していたのか。それはともかく、暴徒の襲撃に対する警察の弱々しい対応は、半年前の完全に平和的なBLMのデモに対する暴動鎮圧用装備の兵士の対応と対照的だった。

議事堂で銃撃を受けて死亡した暴徒の女性がトランプ支持の極右陰謀論グループ「Qアノン」の思想を信奉していたことは意外ではない。Qアノンの陰謀論によれば、トランプはアメリカを救うために神が送り込んだ救世主だとされる。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story