中国覇権の一助になってもRCEP参加がアジア諸国にとって賢明な訳
昨年11月にバンコクで開催された第3回RCEP首脳会議で手をつなぐ各国首脳 Athit Perawongmetha-REUTERS
<アメリカの撤退によって勢力図が大きく変わりつつあるアジアで、中国が推進してきた自由貿易協定「RCEP」が完全ではないにせよ次善の策と言える理由とは>
11月15 日、アジア・太平洋地域の15カ国がRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に署名した。これにより、(内容は控えめだが)世界のGDPの30%をカバーする自由貿易協定が発足することになった。これは、中国、日本、韓国の3つの国が初めてそろって参加する自由貿易協定である。
もっとも、明るい面ばかりではなく暗い面もある。RCEPの誕生により、第2次大戦後に形作られたグローバルな国際秩序と経済秩序の崩壊が加速することは間違いない。
それでもこの協定は、アジアの国々が地域の地殻変動に対処する上で、完全ではないにせよ賢明な方策だ。中国が影響力を拡大させ、アメリカが関与を縮小させて影響力を減退させている結果、アジアの勢力図は大きく変わりつつある。
外交と交渉事における重要な原則の1つは、「ペンを握る者が議論の方向を定め、最終的な結果を決める」というものだ。
今日の世界で中国に対抗できる存在は3つしかない。アメリカ、EU、そして(まだ中国に肩を並べてはいないが)インドだ。ところが、4年前の米大統領選で勝利したドナルド・トランプは就任早々、米政府が旗振り役になってきたTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱してしまった。TPPは、アジアにアメリカ主導の経済秩序を構築して、中国の影響力を抑制することを目指していた。
アメリカがTPPから離脱したことで、日本などアジアの国々は難しい状況に追い込まれた。中国の経済力に圧倒されて、属国同然の立場に陥る事態を避けるためにはどうすべきか。アジアの国々が選択したのは二段構えの対応策だった。
第1に、アジア諸国などは2018年、アメリカ抜きのTPP(新しい呼称は「CPTPP」)を成立させた。アメリカの経済力で中国に対抗するという目的は果たせなくなったが、世界のGDPの約13%をカバーする自由貿易協定が成立した。
一方、中国はTPPに対抗するために、これとは別の自由貿易協定であるRCEPを推進してきた。中国政府は、参加国を増やすために、中国市場へのアクセスを改善することを約束している。アジア諸国の立場から言えば、RCEPはTPPやCPTPPほど包括的な内容でなく、アメリカが参加しない自由貿易協定では中国の影響力を相殺できない。
とはいえ、外交と交渉事のもう1つの原則も忘れてはならない。「参加しなければ、発言権を得られない」という原則だ。アジア諸国は、第2の対応策としてRCEPへの参加も決めた。中国の貿易慣行に対していくらかの発言権を確保し、中国市場へのアクセスを維持しようと考えたのだ。
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