近未来予測:もしもアメリカが鎖国したら...世界に起こること
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MASTER1305/ISTOCK (DOOR), FEIFEI CUI-PAOLUZZO-MOMENT/GETTY IMAGES (BACKGROUND)
<20XX年、新型コロナ禍と南シナ海戦争を経て、アメリカが完全に国境を閉ざした――。人と物の往来が止まり、世界では今「脱グローバル化」が議論されている。その極端な「影響」をフィクションのかたちで描き出す。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」より>
(※この記事はフィクションです)
車のラジオからホワイトハウスが打ち出した最新の宣伝文句が聞こえてくる。「アメリカだけがあなたの安全と幸福を守る」
皮肉は意図していないときに一番効く――スーパーマーケットへと車を走らせながら、ドリスは思った。今ではこの文句はある意味当たっている。大統領が宣言した「オンリー・アメリカ(アメリカだけ)」政策の下、外国製品の輸入は禁止され、アメリカはあらゆる同盟から離脱した。
スーパーの棚にはメイド・イン・USAの商品ばかりが並ぶ。娘の好物の枝豆はなし。フランス産やイタリア産のワインもない。もうじきピザも姿を消すだろう。実際、ドリスが幼かった1960年代にはピザは「外国」の食べ物だった。
どのみちワインは買えない。家計が苦しいから。最近車を買い替えたばかりだが、これまで乗っていたホンダに比べ、国産車は法外に高かった。
外国車の締め出しはアメリカの自動車メーカーにとっては願ってもないチャンスのはず。だがサプライチェーンは寸断され、増産体制はすぐには築けず......。外国勢の穴を埋めて市場シェアを拡大するどころか、供給不足で顧客が離れ、市場そのものが縮小。米自動車業界のあまりの苦戦ぶりに、失業者の激増を恐れて政府が救済に乗り出したほどだ。
ドリスはディナーのためにアメリカ産のロブスターを2尾買った。今夜はお祝いだ。沖縄に赴任していた海軍勤務の夫が帰ってくる。沖縄の米軍基地は2022年の南シナ海戦争で壊滅的な被害を受けたが、修復はほぼ終わったと、夫は話していた。もめにもめた交渉の末に停戦が成立。以後衝突は起きていないが、一触即発のムードは続いている。
物思いにふけっていたドリスは、レジの列で現実に引き戻された。鎖国政策の影響でスーパーやレストラン、建設現場から働き手がどっといなくなった。深刻な人手不足で、客は延々と待たされるようになり、多くの事業が閉鎖に追い込まれた。それでも失業率は高止まりしている。国境封鎖で人だけでなく、モノとカネの流れが止められたせいだ。
「中国ウイルスの侵入を阻止」
「外国人労働者を締め出したから、こんなに待たされるんだ」。後ろに立っている男がぼやいた。すると、もっと後ろのほうから怒鳴り返す声がした。「おい、忘れたのか。あれは『中国ウイルス』だったんだぞ」
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