コラム

「中国ウイルス」で責任逃れを図るトランプ、情報操作の一部始終

2020年04月28日(火)18時40分

新型コロナウイルスが中国・武漢の研究施設から流出したというのは明らかな情報操作 Jonathan Ernst-REUTERS 

<新型コロナウイルスは「中国の施設から流出した」と主張するトランプや右派メディア、虚偽をまき散らす政治指導者が国民から支持されるようになる情報操作のプロセスとは>

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、中国の邪悪な科学者が生物兵器を開発しようとして、コウモリのおしっこの扱いを誤ったために拡散した! ──米共和党政治家や右派メディアがこの種の主張を始めたのは意外でない。アメリカで5万人を超す死者が出て、失業率が20%を達しているのは、トランプ大統領の責任ではなく、全て「彼ら」の責任だ、というわけだ。

新型コロナウイルスが中国・武漢の研究施設から流出したというのは明らかに、トランプ支持派による情報操作だ。私はこれまでのキャリアを通じて、この種の工作をいくつも見てきた。情報操作が行われると、やがて政治指導者が広めたい「真実」が真実として受け入れられるようになり、虚偽をまき散らす人たちが国民から支持されるようになる。

情報操作は、以下のように行われる。まず、どこかのメディアが、打ち消したい情報とは異なる主張をする。断片的な状況証拠や偶然の一致を根拠にして主張を展開し、陰謀をほのめかす。そのメディアは、別に大手メディアである必要はない。

次に、もっと有力なメディアや有名人がそれに言及する。「~~かもしれない」「~~という報道もある」といった言葉と共に、その情報にお墨付きを与えるのだ。すると、複数の「真実」が並び立つ状態になり、真実が相対化されたり、否定されたりする。

トランプが対応の遅れで非難を浴び始めていた今年2月、保守系タブロイド紙のニューヨーク・ポストは、「中国の研究施設からウイルスが流出した」ことを中国当局が認めていないという記事を載せた。同紙のオーナーは、トランプ支持者であるメディア企業経営者のルパート・マードックだ。

4月になると、熱烈なトランプ支持派のトム・コットン共和党上院議員が、保守系ではあるが権威ある経済紙のウォール・ストリート・ジャーナル(やはりマードック傘下)への寄稿でこう述べた。「米政府は、新型コロナウイルスが武漢の中国政府の研究所由来のものかを調査している」

トランプの広報機関に等しいFOXニュース(これもマードック傘下)もこの話を取り上げ、米情報機関もこの件を「調査」したなどと報じた。そして、トランプ自身も「中国ウイルス」という言葉を使い始めた。こうして、悪いのは中国で、トランプには責任がない、と主張する報道が大量に流れるようになった。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計

ビジネス

米国株式市場=続落、関税巡るインフレ懸念高まる テ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、相互関税控え成長懸念高まる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story