コラム

シンクタンクにも左派、保守派、独立派があり、その影響力は絶大

2019年11月15日(金)17時35分

magSR191114_ThinkTanks7.jpg

リベラル系シンクタンクの選挙集会で語るオバマ STEVE MARCUS-REUTERS

筆者は当時、インテリジェンス・コミュニティーを統括して国家への脅威を最終的に判断する国家情報会議(NIC)に所属していた。NICは常に世界各地の第一線の専門家に話を聞き、世界中の多くのシンクタンクや大学に意見を求める。活動は公明正大に行われ、全て公開されている。政権におもねらず、客観的な見解を示す──つまり権力者に臆さず真実を告げる──ことは、インテリジェンス・コミュニティーにとって困難だが必要な役割なのだ。

しかし、ブッシュ政権は多くの歴代政権と同様、インテリジェンス・コミュニティーが提示した結論に不満を抱いていた。その結果、彼らは「NICは偏見に満ちていてリベラル過ぎる」という不満を非公式な場でぶちまけたり、世間にそうした印象を植え付けようとした。

予想どおり、こうした攻撃とともに政権からさまざまな圧力がかけられた。彼らは、NICは自身の偏見を補強するために「左派」のシンクタンクの意見ばかり聞いており、よりバランスの取れた「独立派」の機関の見解も含めて結論を出すべきだと主張した。要は、ヘリテージ財団やアメリカン・エンタープライズ研究所(1938年)のような保守系の右派シンクタンクの意見を取り入れろというのだ。

だが、そうした組織は概して「第2の波」の中で生まれており、公平さを追求するシンクタンクというより保守派の政策を擁護するための組織という色合いが強い。

政権に都合のいいシンクタンクの意見を取り入れ、あらかじめ決められた「正しい」結論を出すよう求める圧力は、まさに1970年代の「チームB」の再現だった。チェイニーやラムズフェルド、ウォルフォウィッツといった政界の保守派は、自分たちの欲しい答えを出すよう情報当局に圧力をかけてきたが、こうした行為は不誠実だ。イラクではこうした姿勢によって悲惨な戦争に突き進むという選択肢が正当化された。

最終的にはNICおよびインテリジェンス・コミュニティーは通常どおり、明白な政権擁護派を含む外部の幅広い立場の専門家から意見を集めた。その結果、怒ったブッシュ政権から無視されることになったが。

トランプに擦り寄る組織も

もっとも、状況は今のほうがはるかに深刻だ。ドナルド・トランプ大統領は、自分に同調しない情報機関(であれ誰であれ)を「ナチス」「嘘つき」「売国奴」などと糾弾する。

ワシントンのシンクタンクの対応の仕方はさまざまだ。ブルッキングス研究所のような王道の組織は、気に入らない事実を「フェイクニュース」扱いするトランプから無視されても、客観的な「真実」の解明に取り組み続けている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story