年間3万人の死者が出る現実を直視できない、銃社会アメリカの病理
オデッサの映画館前で、捜査員がボディーチェックを行う RICK LOBO VIA REUTERS
<公共の安全のための規制は認めるのに、アメリカ人が銃規制の強化にだけ猛反対する心理>
8月に相次いで報じられた銃乱射事件で、アメリカではまたも銃暴力に対する怒りが噴き出している。オハイオ州デイトンで8月4日に起きた事件では37人が撃たれ、容疑者を含め10人が死亡。31日のテキサス州オデッサの事件では33人が銃撃され、容疑者を含め8人が死亡した。
広く報道されたこの2件の惨劇よりも、アメリカの病理ははるかに深い。この2件の間に、ほかの銃撃事件で208人が撃たれ、44人が死亡している。
さらに、2001年9月11日の同時多発テロ以降、銃で殺されたアメリカ人は約63万1000人。南北戦争を除き過去250年間にアメリカが戦った全ての戦争で死んだ米軍の兵士の数に近い。
死者数は増える一方だが、「銃規制」をめぐってアメリカ人は相変わらず分断されたままで、議論は一歩も前に進まない。
銃暴力をめぐる議論は毎回、合衆国憲法の解釈をめぐる法的論争になる。憲法修正第2条は「規律ある民兵は自由な国家の安全保障にとって必要であるから、国民が武器を保持する権利は侵してはならない」と定めている。
アメリカ社会にとって、憲法は法的な重要性を超えた重みを持つ。アメリカ人のナショナル・アイデンティティーは「血縁と地縁」による同胞意識ではなく、憲法に体現されるアメリカの理念に忠誠を誓うことで担保されているからだ。そのため「銃所持の権利」をめぐる議論はアメリカ人のアイデンティティーに関わる議論になる。
ここ数十年、銃規制反対派を勢いづかせるような社会現象と政治的な動きが進んできた。まず、銃所持を通じて仲間意識や文化的な帰属意識を持つような風潮が生まれたこと。一部の銃所持者は理性ではなく情念で自分たちの「グループ」に忠誠を誓う。そして大抵は無意識のうちに、グループの見解に自分の見解を合わせる。彼らは事実を突き付けられても聞く耳を持たない。グループの主張に疑問を持てば、自分のアイデンティティーが揺らぎかねないからだ。
一方、政治的な動きの立役者は、アメリカ屈指の強力なロビー活動団体、全米ライフル協会(NRA)だ。NRAは銃規制反対派の候補者(多くは共和党)を推し、賛成派の候補者をつぶすために多額の資金を使ってきた。今や共和党はNRAの献金と、銃所持の権利を旗印とする勢力の票に大きく依存している。
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