コラム

日米安保見直しの可能性をトランプが示唆した今、これが日本の進むべき道だ

2019年06月29日(土)21時40分

米海兵隊キャンプ富士のフレンドシップフェスティバル Karis Mattingly-U.S. Marine Corps

<トランプの発言は明らかな暴言だが、時代の変化に応じた対応は必要だ>

6月25日、ドナルド・トランプ米大統領が日米安全保障条約破棄の可能性に言及したことがあるとのニュースが報じられた。翌日には、トランプ自身がテレビのインタビューで「アメリカが攻撃されても......日本はソニーのテレビで見るだけだ」と、日米安保への不満をぶちまけた。

トランプの無知と無礼は今に始まったことではないが、今回の発言が持つ意味は大きい。日本が選択すべき戦略上の道筋をはっきりさせたからだ。

トランプの発言が浮き彫りにしたように、アメリカが日本を防衛するという前提は揺らぎつつある。しかも、アメリカが超大国として君臨することで世界の平和が維持される「パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)」の時代も終わりを迎えようとしている。

03年のイラク戦争の頃からパックス・アメリカーナに陰りが見えていた。これは、中国の台頭が加速し始めた時期でもある。しかも、トランプは就任以来、本人は無自覚にロシアと中国を利する行動を取ってきた。

まず、トランプは国際主義者ではなく、直情的なナショナリストで孤立主義者だ。そのような大統領の下、アメリカがルール重視の国際秩序を維持するために果たす役割を縮小すれば、中国とロシアには都合がいい。

トランプは、大国が勢力圏を持つことも容認している。この点は、ロシアが近隣地域への覇権を再び主張し、中国がアジア・太平洋地域で影響力を強めることを助長する。

それに、トランプは(個人レベルでも国レベルでも)強者が勝つべきだという信条の持ち主だ。そして、外国人を守るためにアメリカ人の金と命を犠牲にすべきでないと考えている。その一方で、素朴な重商主義的思考を振りかざして貿易戦争を引き起こしている。

アメリカが国際秩序の維持に消極的になれば、ロシアと中国は国際的な影響力を強めやすくなる。アメリカの同盟国は、どうやって自国を守るかを考えなくてはならなくなった。安倍晋三首相は理解しているようだが、日本に必要なのは以下の行動だ。

日米関係

もちろんアメリカは、これからも日本と国際社会の安全保障にとって決定的に重要な存在であり続ける。従ってアメリカとの同盟関係は引き続き強化しなければならないが、今後は日本側が積極的に動く必要がある。

安倍首相がこの目標達成に向けて努力してきたことは間違いない。アメリカの安全保障の傘を維持するためのコストなら、無作法なトランプのご機嫌取りをすることぐらい安いものだ(私自身はやりたくないが)。

国際関係

日本が初のホスト国となった20カ国・地域(G20)首脳会議で、安倍はプラスチックごみの廃棄問題など、合意可能な分野に注力した。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席との会談後には、協力して「自由で公正な貿易」を促進することで合意したとする共同声明を発表した。国際社会の調整役として役割を全うしたといえるだろう。

さらに日本は、07年に提唱したアメリカ、日本、オーストラリア、インドによる「クアッド(4カ国)構想」に関する努力を強化する必要がある。そのためにも韓国との関係を改善し、この構想への韓国の参加を模索すべきだ。また、可能な限りアメリカを関与させるため、日本の安全保障強化につながる他の多国間の枠組みを立ち上げる努力も必要である。

日本は中国に対抗するため、他の周辺諸国との同盟を積極的に追求すべきだ。そしてもちろん、中国との互恵的関係の構築も同様に追求すべきだ。戦略的な目標は、国家間の緊張をつくり出すことではない。力のバランスを調整して衝突のリスクを減らすことである。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story