日本でテロの脅威は増したのか スリランカの惨劇から学べること
テロ後に最大都市コロンボの聖アンソニー教会の警備に当たる兵士 THOMAS PETERーREUTERS
<4月下旬に起きたイスラム過激派のテロは衝撃的だったが、彼らの攻撃対象は今、仏教圏にも広まっているのか>
スリランカでイスラム過激派が4月21日に起こした同時多発テロでは、イースター(復活祭)のミサのために大勢の信者が集まったキリスト教会と外国人観光客やビジネスマンでにぎわう高級ホテル数カ所が標的にされた。報道によれば、死者は253人、負傷者は約500人に上る。
未然に防げたはずのこのテロで、真っ先に問われるのはスリランカ当局の犯罪的かつ致命的な無能さだろう。一方で、これまでイスラム過激派の脅威は少ないと思われていた仏教国でこれほど大規模なテロが起きたことは、タイや日本など仏教圏の国々に衝撃を与えている。
今回のテロ以前、イスラム過激派のいわゆる「ジハード(聖戦)」はアブラハムを祖とする一神教、つまりユダヤ教、キリスト教、イスラム教の世界の脅威だと考えられていた。この3つの宗教が、イスラム原理主義の流れから生まれた一部の跳ね上がり、いわば鬼っ子である「ジハーディスト(聖戦士)」に手を焼いているのだ、と。実際、日本など仏教圏の国々は今でもジハーディストの標的になるリスクは相対的に低い。
どの国であれ、情報機関の究極の任務は敵の計画と意図を知ることだ。その情報を基に、治安当局は必要な対策を取れる。
だが残念ながらほとんどの場合、情報機関が入手できるのはジグソーパズルの断片であったり、互いに矛盾する事実にすぎない。よく知られた悲劇的な例がアメリカで2001年9月11日に起きた同時多発テロだ。CIAは国際テロ組織アルカイダがテロ計画を練っていて、近々決行するという情報を入手していた。だが「誰が、どこで、いつ」は不明だった。
後で振り返れば、CIAとFBIは未然に攻撃を防ぐための情報を十分につかんでいた。ジグソーパズルのピースをはめる作業に手間取っているうちにテロが実行されてしまったのだ。
これは情報機関の典型的な「失敗例」だ。その結果、罪のない人々が約3000人も亡くなった。少なくとも部分的には、この事件がきっかけとなり、米軍は2カ国に侵攻。以後、アメリカはこれまでに「対テロ戦争」に6兆ドルを注ぎ込み、世界は9.11以前とは一変した。
責任のなすり合いに
これとは対照的にスリランカ政府は何週間も前にアメリカ、インド、それに自国の情報機関からテロの詳細な情報を得ていた。攻撃がいつ起こるか、誰が決行するかまで分かっていた。にもかかわらず、何ら対策を取らなかったのだ。
その結果として復活祭の惨劇が起きた。スリランカでは昨年末まで大統領派と前首相派の対立で政治的危機が続いていた。当然ながら今回のテロについても、政府内で既に責任のなすり合いが始まっている。大統領の求めに応じ、国防官僚のトップである国防次官、さらに警察長官も引責辞任に追い込まれた。
スリランカ政府の無能さはさておき、気になるのはジハーディストが攻撃の対象を広げたかどうかだ。今回のテロもご多分に漏れず、人々の不安をかき立てた。彼らは誰を殺そうとしているのか。所構わず攻撃を行うつもりか。次の標的は私たち?
答えは、一般的に言えば「パニックになる必要はない」。特に日本はそうだ。過激派のテロがこの先何年も脅威であり続けることは確かだが、その脅威は人々が想像するほど大きくない。
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