コラム

日本でテロの脅威は増したのか スリランカの惨劇から学べること

2019年05月13日(月)18時00分

多くの人は普通、出来事を「分析」しない。最近起きた複数の出来事、とりわけ多くの市民が犠牲になった大惨事を基に、新たに起きた出来事を分析せずに解釈する。

よほど慎重かつ冷静に考えようと努めない限り、私たちは周囲で起きたことに感情的な反応をしがちだ。論理的であろうとどんなに努めても、人間は反射的かつ感情的な物の見方から完全には自由になれない。

人間には、複数の出来事にその因果関係や共通性を求めてしまう「思考の癖」がある。恐怖を引き起こす出来事の重要性を過大視し、関連性のない出来事をも関連付ける癖があるのだ。

市民にできることは

9.11以後、ジハードの性質は変わってきた。アルカイダなど特定の組織が計画したものが主流だったのが、ジハード思想に「触発された」個人によるテロが多くなった。

それでもなお最も危険なのは狂信的な人々、どんな思想であれ、熱狂的に信じている連中だ。これが絶対的な正義だと思い込めば、人を殺すことも平気になる。彼らにとっては人命よりも思想のほうが重要なのだ。

こうした狂信的ジハーディストの標的は一貫している。「新植民地主義」のアメリカ、イギリス、フランス、堕落したアラブ世界の国々、キリスト教徒、ユダヤ教徒、そして欧米のルールを受け入れたイスラム教徒だ。今回のテロはたまたま仏教圏で起きた、というだけの話だ。

テロ攻撃の狙いの1つは、社会不安をかき立てること。こうした事件が起きると、誰もが本能的に恐怖心を抱く。過激派のテロが危険であり、各国の情報・治安当局が全力で防がねばならないことは言うまでもない。テロはどこでも起こり得るし、たった1人の犯人が大惨事を引き起こし得る。だがスリランカでテロが起きたから、仏教圏の国々も危なくなったと考えるのは間違いだ。

民主主義国の市民にできるのは、まず冷静であること。そして確かな情報に基づき、適切な対応を取るよう政府に求めること。惨事を防げなかったのは誰のせいかと、「犯人探し」に走るような政府は願い下げだ。

<本誌2019年5月14日号掲載>

20190514cover-200.jpg※5月14日号(5月8日発売)は「日本の皇室 世界の王室」特集。民主主義国の君主として伝統を守りつつ、時代の変化にも柔軟に対応する皇室と王室の新たな役割とは何か――。世界各国の王室を図解で解説し、カネ事情や在位期間のランキングも掲載。日本の皇室からイギリス、ブータン、オランダ、デンマーク王室の最新事情まで、21世紀の君主論を特集しました。

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プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

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