日本でテロの脅威は増したのか スリランカの惨劇から学べること
多くの人は普通、出来事を「分析」しない。最近起きた複数の出来事、とりわけ多くの市民が犠牲になった大惨事を基に、新たに起きた出来事を分析せずに解釈する。
よほど慎重かつ冷静に考えようと努めない限り、私たちは周囲で起きたことに感情的な反応をしがちだ。論理的であろうとどんなに努めても、人間は反射的かつ感情的な物の見方から完全には自由になれない。
人間には、複数の出来事にその因果関係や共通性を求めてしまう「思考の癖」がある。恐怖を引き起こす出来事の重要性を過大視し、関連性のない出来事をも関連付ける癖があるのだ。
市民にできることは
9.11以後、ジハードの性質は変わってきた。アルカイダなど特定の組織が計画したものが主流だったのが、ジハード思想に「触発された」個人によるテロが多くなった。
それでもなお最も危険なのは狂信的な人々、どんな思想であれ、熱狂的に信じている連中だ。これが絶対的な正義だと思い込めば、人を殺すことも平気になる。彼らにとっては人命よりも思想のほうが重要なのだ。
こうした狂信的ジハーディストの標的は一貫している。「新植民地主義」のアメリカ、イギリス、フランス、堕落したアラブ世界の国々、キリスト教徒、ユダヤ教徒、そして欧米のルールを受け入れたイスラム教徒だ。今回のテロはたまたま仏教圏で起きた、というだけの話だ。
テロ攻撃の狙いの1つは、社会不安をかき立てること。こうした事件が起きると、誰もが本能的に恐怖心を抱く。過激派のテロが危険であり、各国の情報・治安当局が全力で防がねばならないことは言うまでもない。テロはどこでも起こり得るし、たった1人の犯人が大惨事を引き起こし得る。だがスリランカでテロが起きたから、仏教圏の国々も危なくなったと考えるのは間違いだ。
民主主義国の市民にできるのは、まず冷静であること。そして確かな情報に基づき、適切な対応を取るよう政府に求めること。惨事を防げなかったのは誰のせいかと、「犯人探し」に走るような政府は願い下げだ。
<本誌2019年5月14日号掲載>
※5月14日号(5月8日発売)は「日本の皇室 世界の王室」特集。民主主義国の君主として伝統を守りつつ、時代の変化にも柔軟に対応する皇室と王室の新たな役割とは何か――。世界各国の王室を図解で解説し、カネ事情や在位期間のランキングも掲載。日本の皇室からイギリス、ブータン、オランダ、デンマーク王室の最新事情まで、21世紀の君主論を特集しました。

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