コラム

日韓の国力は、互いを利してこそ強まる

2019年02月06日(水)18時30分

アメリカは、社会的な例説に関して日本に教訓を垂れるような立場にはないが、全体としては少なくとも過去半世紀にわたり、一貫してレーダー照射や偵察機妨害のような国際的挑発に対する過剰にナショナリスト的な反応を抑えようとしてきた。

そして、とりわけ虐げられた集団が関わっているときには、文化的および歴史的な「プライド」の問題に関する民族主義的な主張を排除してきた。

最終的に日韓両国がナショナリズムの遠心力を乗り越えて(少なくとも今は自分のことばかり考えているアメリカに頼らずに)より親密な同盟を築くことに成功するかどうかは、今後の東アジアの国際秩序にとって重要なポイントになるだろう。

歴史の問題や各国のアイデンティティーに関わる対立がぶり返している一方で、新たな秩序の形成が始まっている。過去75年間、アジアの覇権を握ってきたアメリカは今、日本と韓国に何を望んでいるのか?

トランプが大統領でなければ、答えは「より緊密な関係」であっただろう。政治、経済、そして戦略的な予測において、TPP(環太平洋経済連携協定)のコンセプトの復活を期待することもできただろう。

中国は何を要求してくるか。口先だけでなく本当に国際社会の規範を受け入れるかもしれないが、東アジアの新秩序の形成について、より一層の影響力を要求することは確かだ。

地理的な軋轢は宿命だろうか。歴史、あるいは文化は変えられない運命なのか。日本と韓国の指導者たちは隣国であることの宿命と過去、そして感情的な民族意識を乗り越えることができるだろうか。

気まぐれで、一国主義者で孤立主義者のトランプ率いるアメリカは、単なる例外で終わるのか。それとも、トランプを支持するナショナリストや孤立主義者のおかげで、アメリカは世界のリーダーとしての役割を、この先も放棄することになるのか。

今のところ、韓国と日本、中国とアメリカで復活したナショナリスト勢力は、アメリカが第二次大戦後に創設した「対等な主権国家同士の関係」に基づく国際秩序にますます重圧を加えている。

だが日本も韓国も、この点に関しては自らの運命を自ら選ぶことができる。両国の出方は、21世紀半ばの国際秩序の形成に影響を及ぼすだろう。賢明に行動すべきだ。日韓両国の、ひいては東アジア全域の平和と繁栄が懸かっているのだから。

<本誌2019年01月29日号「特集:世界はこう見る 日韓不信」から転載>

※2019年1月29日号(1月22日発売)は「世界はこう見る:日韓不信」特集。徴用工、慰安婦、旭日旗、レーダー照射......。「互いを利してこそ日韓の国力は強まる」という元CIA諜報員の提言から、両国をよく知る在日韓国人の政治学者による分析、韓国人専門家がインタビューで語った問題解決の糸口、対立悪化に対する中国の本音まで、果てしなく争う日韓関係への「処方箋」を探る。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story