コラム

日韓の国力は、互いを利してこそ強まる

2019年02月06日(水)18時30分

magw190206-japan.jpg

韓国で行われた国際観艦式で「旭日旗」の掲揚自粛を求められた海上自衛隊の護衛艦は参加を見送った Toru Hanai-REUTERS

韓国政府はもっと賢く、この問題に取り組む日本の努力を認め、そしてどうすれば財団が被害者の意見を「反映する」ことができるか、日本と協力して改善すればよかったのだ。怒りはお粗末な政策しか生まない。

いずれにせよ、韓国との緊密な関係が日本の戦略的利益にとって必要不可欠なものである限り、日本は次の2つの対応をすべきだ。

第1に、日本には韓国の痛みに対処する意思があることを再び断言すること。第2に、日本の取り組みを互いに受け入れられる形にするために日韓で協力しようと韓国に提案すること。この場合、外交で成果を上げるには、常に相手方のプライドと目的を理解し、自らの提案に取り入れる姿勢を持つべきだということを、韓国側が認識する必要もある。

ちなみにアメリカも、国のプライドの問題に関して世論が二分されている点では、日本や韓国と同様だ。国際的な挑発や侮辱への対応に関しても、同じような国内の緊張がある。

日本が韓国の過去へのこだわりと怨念に対処し、韓国が日本の傲慢に対処しなければならないのと同様、アメリカも激化する中国の軍事的挑発には慎重に対応しなければならない。

中国の軍用機はアメリカの偵察飛行を妨害するため、米軍機に数メートルのところまで近づいたりする。01年4月には、無謀な中国のパイロットが事件を起こした。中国機とアメリカの偵察機P3が衝突し、中国機は墜落、米軍機は海南島に緊急着陸を強いられた。こうした威嚇のゲームは今日もなお頻繁に発生しており、最近は危険度も一段と増している。

中国の攻撃性と威嚇的な戦術は、空中だけでなく海上でも採用されている。南シナ海の中国軍艦船は、同海域を航行する米海軍および他国の艦船を挑発している。その目的は南シナ海のほぼ全域(そして、当然のことながら海の下の全ての天然資源)に対する中国の主権を認めさせることにある。

アメリカの対応は、最近の韓国のレーダー照射事件における日本の対応と同じだ。抗議し、リスクを減らすための議論を呼び掛け、アメリカの活動を正当化する原則を再確認する。それは「航行の自由」と国連海洋法条約(UNCLOS)、ハーグの常設仲裁裁判所の判決(もちろん中国は受け入れ拒否)だ。そして中国が嫌がる南シナ海での活動を続けることだ。

緊張が高まり過ぎたため、アメリカが一時的に、中国による抗議を招きかねない活動を控えたことはある。だが短い冷却期間の後、アメリカは常に活動を再開してきた。戦争につながりかねない火花は誰にとっても恐ろしいものだ。だがアメリカは衝突を避けながらも原則を守り通している。

ナショナリズムを乗り越えて

内政面では、アメリカ政府はアメリカ先住民に対する迫害を謝罪し、補償を申し出た。第二次大戦中に日本人であるだけで強制収容した日系アメリカ人にも謝罪し、補償を申し出た。政府がアフリカ系アメリカ人に、奴隷制度について謝罪し、賠償を申し出るべきかどうかについては40年も議論が続いている。

アメリカの社会は、プライド、ナショナリズム、そして名誉の問題について、日本と同じくらい分裂している。多くの点で、アメリカの南北戦争もまだ終わったとはいえない。残念なことに、南部と北部の対立はいまだにアメリカ人を分裂させている。

大学時代の友人の妻は南部のルイジアナ州出身だった。彼女は私の友人と結婚し、ニューヨークに引っ越したが「ヤンキー(北部人)の銀行に金を預けること」は絶対に嫌だと拒んだ。私と彼女の祖先が互いに殺し合うのをやめてから150年もたつというのに、まだこのありさまだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story