中国が仕掛ける台湾人「転向」作戦
蔡総統は与党大敗の責任を取って民進党主席の辞任を表明 Ann Wang-REUTERS
<地政学的力学と経済力と巧妙な情報戦術で、共産党は親中派の市民を着実に増やそうとしている>
壮大な橋と、香港の人々の声の大きさと、金色の馬が、台湾の今を物語っている。
11月24日に実施された台湾の統一地方選挙は事実上、中国の対台湾政策の勝利となった。22県市の首長ポストは、親中とされる野党陣営が改選前の6から15まで増やしたのに対し、与党は13から6に減らした。
世界中の専門家が、今回の選挙を「台湾の香港化の始まり」とみる。香港に続いて台湾でも、歴史の針は中国に向かいつつある。むしろ台湾のほうが、その変化は顕著かもしれない。
選挙の1カ月前の10月24日、台湾から西に700キロの地で、香港と中国の広東省珠海、そしてマカオを結ぶ「港珠澳大橋」が開通した。式典には中国の習近平(シー・チンピン)国家主席も出席した。
全長55キロの圧巻の建造物は、政治的メッセージでもある。旧イギリス植民地の香港と、中国、そしてポルトガルの貿易の拠点だったマカオが、初めて1本につながった。
200億ドルとも言われる総工費が、元を取ることはないだろう。橋を架ける事業そのものが壮大さと権力と大胆さの象徴であり、開通の式典に習が出席したことは政治的な意思表明だ。この地域では、全ての橋が北京に通じるのだ。
香港でもある変化が起きている。文化の活力と経済の躍進は、今も香港を輝かせている。ただし、賢明な住人はしばらく前から、政治的に敏感な話題になると慎重に言葉を選び、時には文字どおり声をひそめている。
今年10月には英フィナンシャル・タイムズの編集者で、香港外国記者会の副会長を務めるビクター・マレットが、香港当局からビザの更新を拒否された。香港の独立を主張する政治団体が9月に活動禁止命令を受けたが、8月にその創設者を記者会が講演に招いていたことが大きな理由だとみられている。
かつては中国の玄関口であり、世界に通じる窓口だった香港も、今や橋1本でつながって、「中国の」印象的な都市の1つにすぎなくなろうとしている。
習が大橋の開通式典に臨んだ3週間後の11月17日、台北に台湾と中国の映画関係者が集まった。中華圏のアカデミー賞と言われる「金馬奨」の授賞式が開催されたのだ。金馬奨には96年から中国本土の監督や俳優も参加しており、中華系の映画人が、出自や政治的立場を忘れて共通の文化を祝う機会となっている。
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