コラム

中国が仕掛ける台湾人「転向」作戦

2018年12月06日(木)18時00分

地域の相対的関係が変化

しかし、今年は様子が違った。ドキュメンタリー賞を受賞したのは、14年に台湾独立を支持する学生が立法院を占拠した「ひまわり学生運動」を追った『我們的青春、在台湾(私たちの青春、台湾)』。同部門には、14年の香港の反政府デモ「雨傘運動」を描いた『傘上:遍地開花』もノミネートされていた。

審査員長を務めた中国本土出身の女優、鞏俐(コン・リー)は、プレゼンテーターとしてステージに上がろうとせず、観客席に座ったままだった。中国の政策に反抗する作品と、間接的にでも関わることを避けたのだ。慎重な、おそらくは賢明な選択だった。

台湾と中華系の映画人は、中国政府を無視するようなことはできない。13億人という巨大な中国市場から疎外されるリスクはもちろん、ビザなどに関わる法律的なトラブルも避けなければならない。

こうした構造的変化は、中国がアジアで支配力を高め、政治的な攻撃性を強めていることに呼応して進行している。

優秀な情報機関は、「標的」や敵対する政府、社会の認識を変えようとする。相手を説得するのではなく、相手の考えをひそかに変えることによって、議論に勝つのだ。

1939~41年にイギリスの情報機関はアメリカで大規模な秘密工作を行い、第二次大戦にイギリス側に付いて参戦したいと世論に思わせた。

2016年の米大統領選でロシアの情報機関は、ヒラリー・クリントン元米国務長官の信用を落とす大規模な秘密工作を展開。米社会のアメリカの制度と慣習に対する信頼を失わせた。

現在、台湾を取り巻く力の客観的相関性が変わりつつある。中国は覇権を広げ、アジアに君臨する大国となった。アメリカはドナルド・トランプ大統領の下で混乱を極め、アジアから遠ざかりつつある。これを受けて、台湾の政治家と社会はこれまで以上に中国に関心を向け、共感を示し始めている。

ただし、中国はそこで満足しない。台湾の人々が現実をどのように理解するかという根っこから、変えようとしているのだ。これはレーニンにさかのぼる手法でもあり、ソ連も大きな成を収めた。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、シカゴ・ロス・ポートランドから州兵撤退

ビジネス

米国株式市場=続落、25年は主要3指数2桁上昇 3

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、年間では2017年以来の大

ワールド

ゼレンスキー氏「ぜい弱な和平合意に署名せず」、新年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story