対北朝鮮トランプ外交の見せ掛けの「勝利」
一方、韓国と北朝鮮は朝鮮戦争の終結を宣言し、南北間の相互支援と交流の強化を約束して国交の「正常化」に踏み切る可能性がある。北朝鮮に拘束されている3人のアメリカ人は解放される。経済制裁についても、核・ミサイル実験の凍結継続を条件に緩和されるだろう。
こうして全当事者が歴史的な変革を宣言する。ただし大きな変化は「形式」部分だけで、「中身」の変化は小さなものにとどまる。ともあれ朝鮮半島の緊張は緩和され、トランプは全員の「勝利」を宣言する。
実際、私は南北関係や米朝関係はやや改善されると予測している。一方、中国の影響力は少しだけ弱まり、日本の安全保障に対するアメリカの関与はおおむね維持されるはずだ。
核保有のまま制裁緩和へ
そして人々の注目は次の危機に向かう。少なくともトランプに対するアメリカの世論はそうだ。トランプの愛人だったと告白した元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズのスキャンダル、中国やEU、日本との貿易摩擦、ロシア疑惑をめぐる米司法省幹部の更迭問題......。
このシナリオが狂うケースは2つ。北朝鮮が再び愚かな挑発に出た場合と、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)のような強硬派が北朝鮮への武力行使は必要であり、破滅的な事態にはならないと主張してトランプやアメリカの安全保障専門家全体の説得に成功する場合だ(前者はあり得るが、後者はかなり難しい)。
戦争の可能性はまだあるが、リスクは低下したと思う。トランプが米朝首脳会談後、「アメリカ史上最大の外交的勝利」を宣言すれば(多分する)、リスクはさらに低下するだろう。
しかし、勘違いしてはならない。トランプが宣言する「勝利」と朝鮮半島で起きる変化の多くは、「形式」レベルにとどまる。
トランプが命じた「出生地主義の廃止」には、思わぬ悪影響が潜んでいる 2025.01.31
大統領の「自爆」クーデターと、韓国で続いていた「軍人政治」 2024.12.26
民主主義の危機は民主主義のシステムそのものに内在している 2024.12.14
元CIA工作員が、かつての敵国ベトナムを訪問して新たに発見したこと 2024.11.27