コラム

安倍氏国葬、「献花に2万人超」は本当に「驚くほど多い」のか?

2022年09月29日(木)22時05分

前述の通り、1万人を動員した保守系民間団体は、テレビ・ラジオ・新聞に原則まったく頼ることなくほぼネット動画のみでこの数を達成した。約2ヵ月の大々的な、しかも政府によるアナウンスの結果がこの数字(せいぜいこれらの2倍程度)とは、私にしてみればかなり寂しいものを感じる。「これだけの人が!」「これだけ大勢の人が!」という割には、もちろんコロナ禍もあり平日だったことも大きく加味しなければならないが、特段の驚きを感じない。これで驚くというのならば、やはり「健忘症」的傾向があるのではないか。

直近の参議院選挙全国比例で自民党は約1,826万票を獲得した。くどいようだが一般献花の列に加わることはイコール自民党支持を意味しないものの、「25,889人」はこの自民党票の「約0.14%」にすぎない(正確には、0.142%)。もっと来られても良かったのではないかというのが正直な感想である。

数字から客観的な判断、分析を

ちなみに9月27日に国葬反対を訴える反対派の行進等が行われたが、こちらの参加者は500人とも2,000人ともいわれる。仮に中間をとって1,200人程度だったとしても、一般献花の1/20程度である。だが「反対派の参加者が賛同者よりもより少ない」ことを以て、「国葬はサイレントマジョリティの賛成意志が示された」とはならない。好むと好まざるとにかかわらず、結果的に政治的イシューの文脈で語られるにあらゆる催し物は、その現場を訪れる数において、開催に賛同する側の方が明らかに多い。

前掲の電通とフジテレビ集会では、目立った反対派は3人ぐらいだった。日比谷野音での大集会における明確な反対派の抗議は、私が視認した限りでは10人ぐらいだった。主催者側は参加してほしい、の一心でその全力を投じて盛んに広報し、多くの人は賛同の意味を込めて拡散するので、これへのカウンターは常に賛同者よりも圧倒的に劣後するのである。何かを開催したときの反対派の結集は、常に賛同者よりも少ない。

人々は、現下で展開される出来事の刹那的な数字や物理的行列にすぐ反応し、「驚きだ」と言う。過去を振り返り過去と照らし合わせ、冷静に判断すれば「通常運転」に過ぎなくとも、何か新しい潮流が生まれている―、とか、実際には多くの人の心理は違っている―、などという分析は大抵の場合間違いであるとなるはずだ。漠然としたアンケートなどではなく、今回の一般献花はきちんと数字が出ているので、冷静かつ客観的な評価が求められよう。

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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