コラム

ゼレンスキー演説「真珠湾攻撃」言及でウクライナの支持やめる人の勘違い

2022年03月19日(土)13時22分
真珠湾攻撃

1941年12月7日の真珠湾攻撃で沈む戦艦アリゾナ。これと9.11とは別物なのか Navy/U.S. Naval History and Heritage Command/Reuters

<9.11と並べられて不愉快だと言う人たちは、真珠湾攻撃は「軍施設のみを標的とした紳士的攻撃」だというのだが>

ウクライナのゼレンスキー大統領が、3月16日に米連邦議会のオンライン演説で「9.11」と「真珠湾攻撃」を取り上げたことで、特に日本の保守派から猛烈な反発が沸き起こっている。そのほとんどが、「9.11」はワールドトレードセンター等を標的とした民間人へのテロだが、真珠湾攻撃は軍事施設を標的とした攻撃であり、同列に論じられるのは不愉快である、というもので、これを以て「ゼレンスキーやウクライナへ同情するのをやめた」という日本の保守派ユーザーからの嫌悪感が沸き起こっている。

「9.11」の時、米メディアは盛んに真珠湾攻撃を引き合いに出し、「米本土が攻撃されたのは真珠湾以来初めて(二度目)」と報道した。アメリカにとって、実際がどうであれ「9.11」と「真珠湾」に対する認識はこうなっている。「真珠湾は軍施設を標的としたものだったから9.11と同列にするべきではない」というのは、はっきりいって世界的に見て極めてマイノリティな見解である。少なくともアメリカ側では「9.11」と「真珠湾攻撃」は同種類の本土への奇襲攻撃として扱われるのが普通である。こういった認識がアメリカにはあり、しかもそれが一般的であるというのは事実なのである。

一方日本の保守派にとって、いや日本人にとって真珠湾攻撃は大変センシティブな問題である。なぜなら真珠湾攻撃とアメリカによる二発の原爆投下は直線的につながっているからである。アメリカ側の史観に立てば、原爆投下は広義の意味で真珠湾攻撃の報復であり、真珠湾の「卑劣なだまし討ち」が原爆投下を正当化する感情的根拠になっているからである。

真珠湾攻撃は軍事目標(米太平洋艦隊・基地施設、飛行場等)への攻撃なのに、原爆は純然たる市街地を狙って無辜の民間人を25万人以上焼き殺している。よって日本人にとっては、真珠湾攻撃は大変申し訳ないけれども、それと原爆投下や東京大空襲は別の問題である、と言いたくなる心情がある。

真珠湾攻撃は日米共に多角的に検証されている。では真珠湾攻撃は純粋に軍事施設のみを狙った攻撃だったのかというと、本当にそうなのである。民間施設やオアフ島の市街地は、日本軍の攻撃目標ではなかった。しかしこれは日本軍の人道的配慮というよりも、民間施設を爆撃しても軍事的な意味がなかったからである。攻撃の目的は真珠湾に停泊する米太平洋艦隊の撃滅と航空戦力の無力化であって、米民間人を爆撃しても軍事的価値が無かったからに過ぎない。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story