自民党は一度、ネット世論戦略に失敗している。Dappiはその後継か?
自民党の本格的ネット世論戦略は、2010年に始まった。J-NSC(自民党ネットサポータズクラブ)の設立である。2009年に麻生自民党が鳩山民主党政権誕生で下野すると、自民党はリベンジに燃えた。第一の目標は麻生から鳩山の政権交代が、既存メディアにおける不誠実な自民党批判によって行われたと認識し、これらメディアへの対抗軸をネットに構築することであった。事実、麻生太郎は「漢字が読めない」などとさんざん大メディアに批判され、内閣支持率は急下降した。この既存メディアによる報道が自民党の下野を呼んだと判断したため、対抗となるネット世論への訴求が必要であるとしたのである。
J-NSCの草創期、私は自民党本部に取材に向かった。タウンミーティングでは60代や70代以上の高齢者ばかりを相手にしてきた自民党にとって、大都市部に住む40代男性を主力とするJ-NSCは「まず第一に若い」という印象を持った、と自民党担当者は言った。しかしこの大都市部にすむ40代男性という社会階層こそ、所謂「ネット右翼」のど真ん中だったのである。
ネット保守によりヘイト化
J-NSCの初期段階は、前途多難であった。政治的基礎教養が乏しく、人文科学系等に疎いネット保守がこぞって闖入してくるため、J-NSC会員が流す言説はたちまちヘイト化し、統制の取れない状況になった。J-NSC会員を名乗るアカウントからは、大量でしかも恒常的な、在日コリアンや韓国・朝鮮、中国への罵倒が相次いだ。このような事情を鑑み、2013年4月には、
"【J-NSCニュース】みなさんへのお願い『J-NSCを騙る人種・民族差別発言』について"
と題して、人種・民族差別発言を許容しない旨、自民党が掣肘する注意喚起が会員向けに流されたほどである。
尤もこの中で、"J-NSCを騙る"とあるが、実際にはこうした差別言動をJ-NSC会員本人がやっていた事実は少なからずあるだろう。当然のこと、SNS上で差別言動をとるアカウントのプロフィール欄にJ-NSC会員と書かれていても、その真偽を断定することはできないからである。こういった差別言動の少なくない部分を、J-NSC会員が担っていたことは私自身の観測から言って間違いない。要するに、初期のJ-NSC会員には、自民党が好きという以前に、大量のヘイトやデマをまき散らす「不良会員」が多くいたのである。彼らが跋扈すると、当然自民党にとっては「贔屓の引き倒し」であり、放置しておくことはできなくなる。
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