コラム

Qアノンとは違う「日本型陰謀論」が保守派の間で蠢いている

2021年02月19日(金)18時35分

magSR20210219japaneseconspiracy-3.jpg

「安倍ロス」の果てにトランプ必勝を希求した日本の保守派は、敗北で「分裂」した(1月20日に東京で行われたデモ) ISSEI KATO-REUTERS

つまり、保守派はキリスト教への無理解に重ね、洋の東西を問わず宗教的価値観から発せられる言説を禁忌し、またその背景にある宗教勢力や宗教団体の存在にことさら嗅覚を研ぎ澄ませている。

保守派の内ゲバの際、敵対者に対しよく使われる言葉は「Aは〇教の信者」といった呪詛であるが、これをめぐって不毛なバトルが日夜繰り広げられている。

ちなみに宗教右派勢力として話題になった「日本会議」は、実際のところ保守派の中ではマイノリティーである。特にネット右翼の中で「日本会議」会員は極めて珍しい。

今年1月6日、東京都内でトランプの勝利を疑わない新興宗教団体主催のデモ(参加約1000人)が起きたが、参加者の多くは単にネット宣伝に呼応した非信者とみられる。その主張はやはり、Qアノンの述べるキリスト教的価値観を苗床にした陰謀論よりも、バイデンの不正選挙糾弾に軸足が置かれていた。

トランプ勝利を疑わない保守派は、昨年11月の大統領選挙で「赤い蜃気楼」が起こるや否や、口をそろえてバイデンの不正選挙を主張した。

最も苛烈だったのは作家の門田隆将氏であったが、氏のSNS上での米東中部諸州での開票に不正があるというツイートが、ツイッタージャパンから「誤解を招いている可能性がある」として非表示措置になった。しかし保守派は、無邪気にもこうした不正選挙とトランプ逆転の可能性を熱心にリツイートした。

その後トランプの敗北が確定的になると、保守派は今度は投票集計装置が操作されているという陰謀論を展開し、今でも彼らはそれを信じている。その結果、前述のとおり「認識派」と称するバイデン勝利是認一派をパージ(粛清)したのだ。

民族差別の側面が強い陰謀論

Qアノンの主張する陰謀論は、日本の保守派には浸潤しづらいというのは既に述べたとおりであるが、日本には伝統的に「日本型陰謀論」という特有の陰謀論がある。

保守派が包摂するネット右翼は、日韓サッカーワールドカップが開催された2002年から勃興したが、最初の大規模な陰謀論の隆盛はいわゆる「在日特権」であった。

在日コリアンは日本国家や自治体から無税特権を受け、優遇を受けている結果、日本社会における政財官、特にテレビを筆頭とした大メディアと巨大広告代理店等を支配しているとしたが、その根拠はネット発の妄想だった。

彼らの言う「在日特権」は、その後10 年を経ても全く立証されなかったので、これに代わり2010年代中盤から勃興したのがいわゆる「沖縄ヘイト」である。この背景には中国工作員潜入陰謀論というのが横たわっている。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=上昇、相互関税発表にらみ値動きの荒い

ビジネス

NY外為市場=ドル/円上昇、対ユーロでは下落 米相

ワールド

トランプ米大統領、「相互関税」を発表 日本の税率2

ワールド

イラン外務次官、核開発計画巡る交渉でロシアと協議 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story