コラム

悪意を撒き散らすひろゆき発言への危機感

2022年10月31日(月)15時46分

ひろゆき氏は10月3日から、沖縄の辺野古基地建設反対運動で行われている建設資材の搬入を阻止するための座り込み行動に対して、工事車両が来ないときは座り込んでないのだから、これは座り込み運動ではないという揶揄を続けている。

また10月末、渋谷区美竹公園で起きた行政によるホームレス排除事件に対して、ひろゆき氏は区に抗議している人は自分の家にホームレスを泊めればいいという内容の揶揄を行った。先述のようにひろゆき氏はDaiGoのホームレス差別発言を批判していたが、その理由はホームレスを保護することには社会的効用があるからでも、ホームレスの生存権は守られねばならないからでもなかった。私は生存権という人権を基盤としない擁護論は危ういと懸念していたが、まさにその危惧が当てはまってしまったかたちだ。

このような、10月に投稿されたひろゆき氏の一連の発言に共通しているのは、多数派にとって目障りで、お荷物とみなされているような対象を、悪意をもって踏み付けるという意志に他ならない。

一部が持つ悪意を巧みに誘導

しかしこうしたひろゆき氏の一連の悪意は、Twitterで多くのRTや「いいね!」を集めており、多くの人々に支持されてしまっている。『沖縄タイムス』の阿部岳記者の記事によれば、ひろゆき氏に追随して、沖縄の運動に心無い言葉を向ける人々が増えているという。

医療問題、基地問題、野宿者問題、それぞれ長い歴史・議論・運動の蓄積がある。安易な揶揄をすれば揶揄をしたほうが馬鹿にされる。ひろゆき氏もこうした蓄積をよく知っているわけではない。しかしひろゆき氏は、議論の上手さだけでそれを突破しているようにみえるのだ。

人々の中には、マイノリティからの告発や、人権問題は社会全体の責任で解決すべきであるという「正論」から自由になりたい者がいる。そのような者にとって、議論を「座り込み」の定義や胃ろうのコストといった極めて限定的な範囲に強制的に絞ったうえで、ロジック上の「正論」を振りかざし、議論に勝利し続けているかのように見える「論破王」ひろゆき氏は、ありがたい存在だ。なぜなら、自分たちが差別や人権、社会的弱者の問題について、何も学ぶ必要がないと勇気付けてくれるからだ。ひろゆき氏の尻馬に乗ることは、社会的な責任を回避するための極めて低カロリーな方法なのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story