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「資産所得倍増」を打ち出した岸田首相「新しい資本主義」の欺瞞
ロンドンのシティーで「キシダに投資を」と演説した岸田首相(5月5日) Peter Nicholls- REUTERS
<5月初旬に訪英した岸田首相は、ロンドンの金融街で「貯蓄から投資」への移行を約束した。自民党総裁選で強調した「成長と分配の好循環」はどこへ行ったのか>
5月5日、岸田首相は外遊先のロンドンで、自身が訴える政治方針である「新しい資本主義」について、貯蓄から投資への移行を促すことだと述べ、日本の個人金融資産2000兆円を利用し、「資産所得倍増を実現する」と表明した。しかしこの説明は、昨年の総裁選で訴えていた「成長と分配の好循環」という説明と大きく矛盾している。
菅前政権は、社会政策について、「公助」「共助」「自助」のうち「自助」を重視していた。2019年には、老後資金として一人当たり2000万の貯蓄が必要だと国が考えていることが明らかになっている。。これに対して岸田首相は総裁選で分配の重要性を訴え、金融所得課税の強化にすら言及していた。
筆者は昨年10月の記事で、岸田政権は結局「古い自民党」に過ぎないと指摘したhttps://www.newsweekjapan.jp/fujisaki/2021/10/post-23.php。しかし世間では岸田政権は菅内閣の新自由主義政策を是正し、中間層の立て直しを行うはずだと思われており、一部野党支持者にも岸田政権は支持を広げていた。
結局、党内外の猛烈な反対により、岸田首相は総裁選後に金融所得課税の強化を撤回し、分配についても「まず成長してから分配へ」という姿勢にトーンダウンした。しかし「新しい資本主義」のスローガンは継続して用いており、新自由主義路線からの転換を目指す方針は一応保たれていると思われていた。
新自由主義への回帰
しかし、今回岸田首相が「資産所得倍増プラン」を表明したことによって、「新しい資本主義」とは結局のところ新自由主義路線の継続でしかないことが決定づけられた。なぜなら、資産所得を強調すればするほど、トマ・ピケティのいわゆる「r>gの法則」によって、貧富の差は拡大していくからだ。
「r>gの法則」は2014年に邦訳が出版されたトマ・ピケティ『21世紀の資本』で取り上げられ、有名になった。資産運用による富の増加(r)は労働による富の増加(g)を上回るという法則で、つまり資本主義社会とは、放っておけば持てる者と持たざる者の格差は広がり続けていくシステムだというのだ。
これを是正するためにピケティは金融所得や資産に課税し、それを広く分配するという政策を提示する。岸田首相の初期の主張はまさにこの方針に近かった。しかし「資産所得倍増プラン」はそれに逆行するプランだといえる。
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