コラム

五輪開催の是非、コロナ分科会に諮問しない ── 安倍政権以来の悪弊続く

2021年06月07日(月)06時10分

このような分科会長の「助け舟」にもかかわらず、政府はオリンピックを、観客を入れて開催しようとしている。東京都もその方針を崩していない。代々木公園で行われる予定だったパブリックビューイングは、反対運動が高揚したことによって中止になったが、井の頭公園や上野公園でのパブリックビューイングはまだ中止になっていない。

この春の、コロナ感染者の急激な増加を受けて、日本の医療は限界に達した。大阪など医療崩壊した地域では1日の死者数が過去最多を更新し、入院できず自宅で放置されてしまった感染者が何千人にも上るなど地獄絵図と化している。こうした実情を考慮して、少しでも感染リスクを避けようとする考えすら、今の政権にはないということなのだ。

賢明なる選択ができる政府へ

昨年からの日本のコロナ対策は、緊急事態宣言を出す条件などについての明確な基準を定めないまま続けられてきた。そのため2回目の緊急事態宣言を早期に解除してしまい、春の感染拡大を招くなどの失敗が起こった。

基準を明確に定めないのは、科学的な基準で提言された選択がもし政治的に都合が悪ければ黙殺できるからだろう。もちろん科学と政治は異なり、政治的判断はあらゆる基準を考慮して行わなければならない。たとえば「科学」が反人権的な政策を要請したとしても、「政治」はそれを拒否しなければならない。

とはいえ、何らかの基準を定めてそれに沿って政治が動くことは、一般論としては人権を擁護する上でも都合がよい。基準を破る場合は、なぜ破らなければならないのかという説明責任を果たせばよいだけのことだ。それを行えないのは、政治的判断の中に利権が入り込んでいる場合だ。そしてコロナ対策に関して科学的提言を受け入れられない大きな阻害要因となっているのがオリンピックなのだ。

コロナ分科会は分科会で、もっと早くから政府に強い提言を行っていくべきだった。だが、感染初期のクラスター対策班のリーダーだった西浦教授が暴露しているように、根本的な問題は親政府的な立場をとっている専門家でさえ自由な発言や行動を許さなかった政府にある。

オリンピックの開催は見直される必要がある。そして夏以降もコロナは続く。公正かつ合理的なワクチン接種計画も立てなければならない。そのためにも我々には、科学的なものに敬意を持ち、賢明な選択ができる政府を選択する責務が課せられているのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story