コラム

李登輝前総統の逝去報道──日韓の温度差

2020年08月11日(火)15時30分

韓国では「親日家」は業績があっても、死後も批判を受け続ける

李総統の死に先立つ7月10日、韓国では朝鮮戦争の英雄、白善燁元陸軍参謀総長が逝去した。1950年の朝鮮戦争初期、絶体絶命の危機に瀕していた韓国を救ったのが当時師団長であった白善燁将軍である。彼は間違いなく朝鮮戦争において最高の功績を誇る軍人だ。彼は、当時韓国軍と共に戦った米国においても高く評価され、韓国に赴任した韓米聯合軍司令官や駐韓米国大使は彼の自宅を訪ね、挨拶を交わすことが長く恒例行事となっていた。

ところが彼の死後、韓国内で起こったのは彼に対する批判の声だ。彼は過去に満州軍の中尉、つまり親日派であるのだから彼を国立墓地に埋葬するのはけしからん、とい主張が聞こえてきた。これは韓国の左派陣営、与党を中心に広がった意見だ。朝鮮戦争における英雄だったとしても過去に日本に協力した人間を英雄として扱うべきではないという意見が優勢になるのが現在の韓国の姿だ。

見方によっては白善燁将軍と李登輝総統は共通点が少なくない。植民地に生まれ、日本あるいは満州国の将校を務め、終戦後にはそれぞれの祖国の為に大きな業績を残した人だという点だ。ところが一人は死後にまで親日派だったと非難を受け、もう一人は民主化の父として多くの人々から感謝されるなかで眠りにつき、追慕されている。

親日の国家の英雄は、「不都合な事例」?

もしかすると韓国が李総統の死についてあまりにも無関心を貫いているのは、他国では親日派も国家の英雄になれるということを認めたくない気持ちの表れなのかもしれない。少なくとも韓国の現政権の立場から見ればそれは「不都合な事例」に違いない。

ちなみに、昨年1月に元慰安婦の女性が亡くなった際には自ら葬式に参列し哀悼の意を表していた文在寅大統領は、白将軍の葬式には弔花を送ったものの参列はしなかった。今の韓国においては親日の過去を持つ「救国の英雄」よりも「(日本からの)被害者」がより重視されるということを大統領自ら示したのである。

プロフィール

崔碩栄(チェ・ソギョン)

1972年韓国ソウル生まれソウル育ち。1999年渡日。関東の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。日韓関係について寄稿、著述活動中。著書に『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)『韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由』(彩図社刊)等がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フジHD、中居氏巡る第三者委が報告書 「業務の延長

ビジネス

米利下げは今年3回、相互関税発表控えゴールドマンが

ビジネス

日経平均は大幅に3日続落し1500円超安、今年最大

ビジネス

アングル:トランプ氏の自動車関税、支持基盤の労働者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story