コラム

韓国・文在寅政権──モンスターになってしまったモンスターハンターたち

2020年01月16日(木)17時00分

大学の掲示板に文在寅大統領を批判、風刺する壁新聞を貼り出したところ ...... YouTube

<韓国で大学の掲示板に文在寅大統領を批判する内容の壁新聞を貼り出したところ、「建造物侵入罪」で起訴され問題となっている ......>

最近、韓国である大学生が起訴された、起訴容疑は「建造物侵入罪」。学生は大学内に入り掲示板に文在寅大統領を批判、風刺する内容の壁新聞を貼り出したのだが警察がこれを私的な空間への無断侵入として送検、検察もこれを認め起訴に至ったのである。

この事件は韓国内でも話題となった。表現の自由を弾圧するものではないかという批判、そして普段大学のキャンパスは近隣住民にも開放されている空間で、学生が壁新聞を貼った日も誰もが自由に出入りできる状況だったのにそれを起訴するのはやり過ぎだという声が上がったからだ。

これに対し警察は「大学からの捜査依頼があったためだ。大学側の意志に反し入ったのであれば侵入罪が成立する」と反論したが、程なくこの警察の説明が嘘であったことが判明した。大学側が「捜査を依頼したり、告訴したりした事実はない」と明確に否定したためだ。

政権への「忖度」が働いていたのかどうかは分からないが、警察は何としてもこの学生を起訴したかったのだろう。だからこそ、壁新聞を直接問題視して捕まえれば「表現の自由」を抑圧するという批判が起こることを見越して「建造物侵入」という別件捜査によって送検したのだ。だが結果として、大学側の否定により、強引な捜査だったということが明るみにで、恥をかくことになった。

軍事政権でさえ弾圧しなかった大学の掲示板

壁新聞は韓国語で「大字報(デジャボ)」という。自身の意見や、伝えたい情報を、自らの手で書き、壁に貼り付けるのが「大字報」だ。韓国社会において「大字報」は特別な意味を持つ。70年代から80年代まで、韓国の軍事政権はマスコミの報道を検閲し、ときには弾圧してきた。政権、国家に対し批判的、否定的な報道は認められず、記者やジャーナリストたちは監視下に置かれた。酷いときには記者が暴行されることもあった。その時代の韓国に表現の自由はなかったのだ。

そんな韓国において唯一表現の自由が保障されていた空間が大学キャンパス内の掲示板であり、ここに掲示する「大字報」だった。テレビや新聞が伝えることのできない政府への批判意見や異論を学生たちは大字報を通じて自由に表明し、ときに多くの人々の溜飲が下がるような名文が生まれることもあった。

中には検証されていないような情報やデマが出回るというマイナス面があったことも事実であるが、それでも大字報が韓国の民主化運動において重要な役割を果たしたことは疑いようがない。政府へ批判的な報道や意見は厳しく弾圧していた軍事政権だが、大学構内という限定された空間で発表される大字報にまでは干渉しなかった。

プロフィール

崔碩栄(チェ・ソギョン)

1972年韓国ソウル生まれソウル育ち。1999年渡日。関東の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。日韓関係について寄稿、著述活動中。著書に『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)『韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由』(彩図社刊)等がある。

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ和平案の感謝祭前の合意に圧力 欧州は

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story