コラム

変質してしまった韓国の公休日『ハングルの日』、増加する「排斥」の雰囲気

2020年10月22日(木)17時30分

日本語排斥運動は年を重ねるごとにエスカレートしている...... Chung Sung-Jun/REUTERS

<韓国で10月 9日は『ハングルの日』という名の公休日だ。毎年ハングルの日を迎えるたびに外来語、特に日本語排斥運動が盛り上がる...... >

韓国において10月 9日は『ハングルの日』という名の公休日だ。ハングルは15世紀の朝鮮で開発された表音文字で、韓国が全世界に誇る文化遺産でもある。

日本では NHK教育テレビジョンの韓国語講座が『テレビでハングル講座』という名で放送されているが、これは厳密に言えば日本語講座を『かな講座』と名付けているのと同じことで、多少の違和感を感じる表現だ。韓国語を母国語とする人間にとって違和感があることは事実であるが、これは教育放送なりの苦肉の策だ。朝鮮半島で使用されている言語を北朝鮮は「朝鮮語」といい、韓国では「韓国語」と呼ぶ。従って、朝鮮語とすれば韓国側から抗議をうけ、韓国語とすれば北朝鮮側から抗議を受けることになる。『ハングル講座』というネーミングは双方に配慮した打開策だったのだ。韓国でも北朝鮮でも使われる文字、ハングル。これを記念したのが『ハングルの日』だ。ところで近年の『ハングルの日』は以前にはなかった空気が流れている。それは「排斥」の臭いがする空気だ。

ハングルへの「愛」から日本語「排斥」へ

80~90年代を振り返ってみるとハングルの日は明らかに「文字」が中心だった。マスコミの報道をみても、市民たちの打ち出したスローガンをみても「ハングル愛」に焦点が当てられていた。例えば、ハングルで書く書道大会、韓国語が書かれたTシャツの広報、販売等、固有の文字であるハングルに対してもっと関心を持ち、愛情を持とうという主張が大部分だった。

しかし、いつからかこれらの主張は「文字」と「言語」を混同することで変質を始めた。文字であるハングルに対する愛情を訴える日ではなく、「外国語を使わないよう訴える日」かのような雰囲気になってしまったのだ。外来語だとしてもハングルで表記したのなら、それは十分にハングルという文字の長所や優れた点をアピールできるはずであるのに、だ。

だが現在の韓国ではそのような意見は受け入れられない模様だ。毎年ハングルの日になれば外来語を韓国式の語彙に変えよ、という運動が始まる。マスコミはこれらの運動を愛国的な運動だと煽り立てる。すでに定着している外来語を韓国語に無理やり変えようとする行為は外来語の排斥、外来語への攻撃を意味するのだが、中でも最も多く頻繁に攻撃対象となるのが日本語だ。

韓国には日本語の単語をどのように翻訳するかを深く考えずに、ただ「そのまま」受け入れて使ってきた語彙が多く存在する。分かりやすい例でいうとワサビ、オデンといった単語がそうであったが、現在はこれらの単語を韓国語に言い換えてコチュネンイ、オムクという言葉を使っている。問題はこれらの言葉の使用を、国民全体に対して半ば強要しているという点だ。韓国ではこのような強制を伴う変化を「醇化」と表現している。

だが、このような「醇化」を完全に受け入れ、使用しているのはマスコミと政府、それに一部の市民運動家たちだけだ。言語を使用する大衆、すなわち「言衆」たちの間では、無理やり置き換えらえた韓国語単語は定着せず、依然としてワサビ、オデンという表現の方が流通しているというのが現実だ。

プロフィール

崔碩栄(チェ・ソギョン)

1972年韓国ソウル生まれソウル育ち。1999年渡日。関東の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。日韓関係について寄稿、著述活動中。著書に『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)『韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由』(彩図社刊)等がある。

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ビジネス

独BMW、米関税回避のための特別な交渉は不要=幹部

ビジネス

カタール・クウェート国債を新興市場指数から除外へ=

ワールド

米、加州高速鉄道事業の補助金40億ドル取り消し検討

ビジネス

金利ある世界での利払い費、非常に重大な課題と認識=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story