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30秒以内に検知...受精卵で父親由来のミトコンドリアが「消される」仕組みが明らかに
では、どうやって父親由来のミトコンドリアDNAは「消える」のでしょうか。後の研究で、マウスやウシなどの哺乳類で、発生の初期段階で父親のミトコンドリアDNAが徐々になくなっていく観察が報告されましたが、具体的な仕組みはなかなか分かりませんでした。
今回の研究論文の責任筆者である佐藤美由紀教授は、10年以上前からオートファジーに注目して、父性ミトコンドリアDNAの消失の説明を試みています。
オートファジーとは、ほとんどの真核生物が持つ、細胞内の不要物を分解する仕組みです。排除したい細胞内の一部(タンパク質や細胞内小器官)を膜で取り囲み、消化して取り除きます。大隅良典・東大特別栄誉教授は2016年、この仕組みの解明によりノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
生物はオートファジーによって、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、細胞質内に侵入した病原体を除去したりしています。このような生体の恒常性維持に関与しているだけでなく、アポトーシス(プログラムされた細胞死)や細胞のがん化抑制にも寄与していることが最近の研究で明らかになってきています。
生きた線虫の体内を動画撮影した結果
佐藤教授の研究チームは11年、土壌に生息する線虫C. elegans(Caenorhabditis elegans)を用いて、受精卵において精子由来の父性ミトコンドリアが、オートファジーによって選択的に食べられて細胞内から除去されることを明らかにしました。チームはこの現象を「アロファジー(allophagy:非自己[allogeneic]オルガネラのオートファジー)」と名付けました。研究成果は科学学術誌「Science」に掲載されました。
さらに18年には、アロファジーに必須な因子として、ALLO-1とIKKE-1というタンパク質を発見しました。ただし、それぞれのタンパク質が父性ミトコンドリアを排除にどのような役割を果たすのかは未解明でした。
本研究では、ALLO-1とIKKE-1の機能を解析するために、生きた線虫(C. elegans)の体内を動画撮影しました。C. elegansは身体が透明なため、体内の観察に適しています。その結果、受精直後に父性ミトコンドリアがオートファジーで食べられる様子を、世界で初めて詳細に捉えることに成功しました。
まず、ALLO-1の解析を進めると、ALLO-は1つの遺伝子から2種類のタンパク質、ALLO-1aとALLO-1bを作っていることが分かりました。この2つのタンパク質の配列の違いは最後の短い配列だけですが、主にALLO-1bが父性ミトコンドリアの分解を担っていることが分かりました。
次に、ALLO-1bはどの時期に、どのような方法で父性ミトコンドリアを分解しているのかを確認するために、線虫の受精をリアルタイムで動画撮影しました。すると、ALLO-1bは卵子に入ってきた精子由来の父性ミトコンドリアを受精後30秒以内に識別し、父性ミトコンドリアに向かって集まっていくことが分かりました。
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