コラム

安倍首相辞任、アベノミクスの2つの大罪

2020年08月28日(金)23時02分

中身にも少し触れよう。

アベノミクスの三本の矢だが、成長戦略は成功しなかった、というよりも実質的には何もなかった。しかし、ほかのすべての政権も成長戦略はなかったし、成功したことももちろんなかったので、特に非難すべきことでもない。

財政政策は、基本的にバラマキ政策であるが、その割には、安倍政権の望みではなかったかもしれないが、結局消費税を5%から10%に引き上げた。他の政権だったとしても、増税は嫌がっていたはずなので、それに比べればましだったと言えるかもしれない。軽減税率は導入しなかった方がよかったが(これは経済学者、エコノミストのコンセンサス。今後12%に上げるよりは軽減税率を廃止した方がましだ、とすべての経済学者が思っている)、これは公明党の強い主張であり、また国民も強く望んだことなので、ほかの政権であっても同じであっただろうから、プラスの評価はできないが、特に非難すべきことでもない。

実態は「クロダノミクス」

問題は、三本の矢の、一本目、金融政策である。これがアベノミクスのすべてであり、アベノミクスとは、中身は、異常な金融緩和による、円安、株高政策だったと要約してしまってもよい。だから、私は、アベノミクスではなく、日銀黒田総裁によるクロダノミクスだ、と呼んでいる。そして、これが株価の上昇をもたらし、成功という評価をもたらしたが、同時に、長期的には、日本経済にもっともダメージを与える政策であり、これがアベノミクスの最大の罪である。

今後、必ず、金融市場は破綻し、金融市場が破綻すれば、日本経済も大きく落ち込む。このリスクとコストを先送りして、短期的に株価を上げて、目先の支持率を上げたのがアベノミクスであった。

確かに、日銀の異次元緩和と同様に、米国も欧州も量的緩和を行った。しかし、日銀と彼らが決定的に異なったのは、米国も欧州も量的緩和の出口を準備したうえで、緩和を行ったことであり、実際に、米国は出口を一回出たし、欧州も出口への道筋を明確に示した。日銀だけが、出口の議論は時期尚早と言って、一切、公式に議論しないばかりか、理論的にも出口のないほどの異常な緩和を行ってきた。そして、それは今も続いている。これがアベノミクスの最大の罪だ。

そして、今年に入って、もう一つ、罪を犯した。それは、新型コロナ対策と称して、財政のバラマキを行ったことである。これが日本政府財政の破綻を決定づけたし、それによる日本経済の停滞のリスクを高めた。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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