コラム

安倍首相辞任、アベノミクスの2つの大罪

2020年08月28日(金)23時02分

安倍晋三、突然の辞任会見。後のツケは国民が払う(2020年8月28日) Franck Robichon/REUTERS

<アベノミクスはイメージ的には大成功を収めたが、経済的には突出して異常な金融緩和と新型コロナ対策のバラマキで日本の将来に大きな禍根を残した>

安倍首相が辞任を発表した。

7年8カ月にわたる政権が変わることから、経済政策も大きく変わる可能性があり、ここで、これまでの安倍政権の経済政策の総括と今後の見通しを議論してみたい。

安倍政権の経済政策は、アベノミクスと呼ばれ、政権の最大のセールスポイントとなった。セールスポイントとなったからには、何らかの成功を収めたと言えるだろう。では何に成功したのか?

それは、人々が、それなりに成功した、と思っていることだ。つまり、成功した、と思わせることに成功した、ということだ。

実は、政策の成功については、評価基準がない。ベンチマークもない。唯一ある数字は、支持率だが、支持率は、スキャンダルの影響など、政策評価から見れば、雑音の影響が大きすぎて、支持率では評価できない。結局、印象論、評判に過ぎないのである。アベノミクスに関しては、少なくとも短期的には経済は良くなったよね、という評価が定着している。これがすべてだ。

ネーミングが全て

では、なぜ、人々は、成功したと思っているのであろうか。

第一に、アベノミクス、というネーミング、マーケティングの勝利である。アベノミクスという言葉は、日本国内で流行語大賞に選ばれただけでなく、世界中で広まった。中身はどうであれ、有名になったもの勝ちである。

第二に、株価を上げた。有名になったアベノミクス。株価が上がった。これで成功確定である。とりわけ、世界の評判では、国内の経済の状況はよくわからない。日本はもともと失業率は低いし、平和である。目に見える一番の数字は株価である。世界中が、アベノミクスは成功したのだと認識した。

これがアベノミクスのすべてだ。

成功だ、と人々に思わせることに成功した。だから成功なのだ。

その手段は株価上昇に的を絞り、とにかく株価を上げることを優先した。そして、それにも成功した。

いみじくも、安倍氏は、辞任の記者会見で、政治は結果を出すことがすべて、と言った。少なくとも、株価という意味では結果を出し、そして、人々に、少なくとも短期的には成功だと思わせる、という結果を出した。

別の言い方をすれば、民主党政権も、自民党の他の政権も、そして、日本だけでなく、今や世界中のほぼすべての政権はポピュリズムだ。どうせポピュリズムなら、ポピュラーになる、人気が出る、支持率を得る、選挙で勝つ、その結果が出たほうが望ましい。その前の民主党政権は、その意味で最悪の結末に終わった。ポピュリズムでありながら人気が最低になって政権を失った。その意味で、小泉政権、第二次安倍政権は優れていた、と言えるだろう。逆に言えば、アベノミクスの成功はそれにつきる。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、5月は予想以上に上昇 22年

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席との関係

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ワールド

ゼレンスキー氏、支援法巡り米国務長官に謝意 防空の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story