プーチンの「静かな動員」とは──ロシア国民の身代わりにされる外国人
昨年9月にロシア政府は、30万人を徴兵できる「部分的動員」を発令したが、同じような動員令を再び発出することは難しいとみられる(1月の軍制改革は「職業軍人の増員」であって市民の動員とは異なる)。国民の反発があまりに強いからだ。
それをうかがわせるのが、その直後の2月1日に公開された動画だ。ロシア政府が公開したこの動画では、軍高官がプーチンに「9000人が'違法に'徴兵された」と報告・謝罪する様子が流された。
この動画では、部分的動員そのものが間違っていたとはいっておらず、あくまで手続に問題があったといっているに過ぎない。また、SNSなどでの政権批判に対する取り締まりは、むしろエスカレートしている。
それでも、「あの」ロシア政府・軍が自ら失策を認めたことは示唆的だ。戦争に駆り出されることへの批判や不満がそれだけ国民の間に充満し、ロシア政府がこれに強い危機感を抱いていることをうかがわせるからである。
国民の不満を買わない兵力増強
もともとロシアでは保守派を中心に「部分的動員」ではなく「総動員」を求める声も大きかった。
しかし、国民全てを問答無用で戦争に駆り立てる政治的リスクは高い。1916年のロシア革命は、第一次世界大戦で経済が疲弊し、生活が困窮したことへの不満を大きな背景にしていた。
だからこそ、プーチンは部分的動員でお茶を濁したといえる。
それでも、部分的動員を受けてロシアでは抗議デモが加速しただけでなく、徴兵対象の20~30歳代男性を中心に数十万人が出国した。
いかなる「独裁者」も国内の支持を失って戦争を続けることはできない。異例ともいえる動画の公開は、「ロシア国民の不満を無視していない」というプーチン政権のメッセージといえる。
その一方で、ウクライナでの戦闘を続けるため、ロシア政府は兵員を確保する必要がある。そのなかで、国民の不満をできるだけ買わないで徴兵できる対象は限られてくる。
これまでロシアでは刑務所に収監されている受刑者がリクルートされてきたが、ワグネルは2月初旬、その中止を発表した。
特赦を条件に凶悪犯を戦場に送り出すことはもちろん、正規軍兵士の犠牲を減らすため「受刑者あがり」ほど不利な戦場に回す手法が、内外の悪評を買ったためとみられる。
その理由はともあれ、受刑者という「手駒」がなくなった以上、やはり一般の国民から不満を招きにくい人間としての外国人に、プーチン政権がこれまで以上に目を向けたとしても不思議ではない。
公式に不満が出にくい者を戦争に駆り立てる手法を、アメリカの戦争研究所は「静かな動員」と呼ぶ。
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