「ナチス軍帽」写真流出で極右候補が選挙撤退...それでも苦戦するマクロン、やはり「無謀な賭け」は失敗に終わる?
エマニュエル・マクロン仏大統領(2023年7月11日、リトアニア・ビリニュス) Gints Ivuskans-Shutterstock
<ナチス時代のドイツ空軍の帽子を被った過去の写真が流出したことで、極右系候補ルディヴィーヌ・ダウディが議会選挙から撤退することに。この一件は、国民連合にある排外主義、外国人嫌悪の気風を改めて浮き彫りにしたが...>
・フランス議会選挙に立候補していた極右系候補が、ナチスの軍帽姿の写真が流出して選挙撤退に追い込まれた。
・そうしたスキャンダルがある極右政党に対してもマクロン陣営は苦戦しているが、そこまで追い詰められたのはマクロン自身の責任もある。
・そもそも今回マクロンが議会の解散・総選挙に踏み切ったのは、極右への警戒の高まりを政権基盤の強化のために利用したとみられているからである。
改めて浮き彫りになった極右の思想性
フランスでは7月3日、ルディヴィーヌ・ダウディ候補が7日に実施予定の議会選挙から撤退した。ナチス時代のドイツ空軍の帽子を被った過去の写真が流出した結果だった。
ダウディ候補は極右政党 “国民連合” に所属しており、北西部カルバドスの選挙区から立候補している。
フランス議会選挙は2回投票制で、第1ラウンドで選挙区の過半数の票を獲得する候補が出なければ、上位2名によって第2ラウンドが行われる。ただし、第1ラウンドの得票率が12.5%を上回った候補にも決選投票進出の権利が与えられる。
ダウディ候補は6月30日に行われた議会選挙第1ラウンドで3位だったが、19.5%の票を獲得していたため、第2ラウンドに進出予定だった。
国民連合はダウディ候補の立候補を取り消したが、除名といった懲罰の対象にするかは触れていない。
移民・外国人の権利制限を主張する国民連合は、これまでも “差別的” といった批判にさらされてきた。そのため最近では “ネオナチ” のイメージ払拭に努めている。
とはいえ、ダウディ候補の一件は国民連合にある排外主義、外国人嫌悪の気風を改めて浮き彫りにした。
マクロンの “無謀なギャンブル”
しかし、ここでの問題はむしろ、その国民連合が権力の座に近づいていることだ。6月30日の第1ラウンドで国民連合は33.2%以上を獲得し、暫定一位になった。
国民連合が議会第一党になったのは、1972年にその前身 “国民戦線” が発足して以来、初めてだ。
マクロン大統領が所属する中道右派連合 “アンサンブル” と、左派連合 “新人民戦線” はそれぞれ21%、28.1%にとどまった。
つまり、国民連合がこのまま第2ラウンドでも有利に選挙戦を展開すれば、議会第一党になる公算も高い。その場合、同党のジョルダン・バルデラ党首が弱冠28歳で首相になることがほぼ確実である。
フランスでは大統領に首相の任命権があるものの、首相は議会過半数の支持によって指名される。議会に指名された首相を大統領が拒絶することは基本的にできない。それが政治の空転を呼ぶからだ。
そしてその場合、大統領より首相の方が、影響力が強くなる。現在のフランス第五共和制憲法では、大統領には非常事態の宣言や宣戦布告、議会解散などの権限があるものの、日常的な行政権は首相に委ねられている。
要するに、国民連合が議会第一党になれば、マクロン大統領は手足を縛られたのも同じになる。
ただし、ここまで追い詰められたのにはマクロン自身にも責任がある。もともとこの議会選挙は、マクロンの “無謀な賭け” とも呼ばれていたからだ。
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