コラム

ChatGPTに見るSNS時代の口コミ戦略

2023年03月31日(金)22時23分

Open AIも炎上のリスクのことは十分に分かっていた。公開前に、公開すべきかどうかで社内の意見が2分されたという。公開直前に社を離れた幹部がいた。公開反対がその理由かもしれないと思い、TwitterのDMで質問してみたが、まだ返事はない。

CEOのAltman氏は、反対を押し切って公開に踏み切った。最近のWeb3のムーブメントをみても、世間はテック大手に反発しているだけ。OpenAIは、一般人にとっては無名のAIベンチャー企業。Open AIがチャット型AIを公開したら、好意的に受け止めてくれるのではないだろうか。この2、3年の進化に驚愕し、それほど批判的にはならないんじゃないか。そう判断したんだと思う。

僕から見るとかなりリスキーな賭けだが、結果はAltman氏の読み通りになった。ChatGPTのデタラメな回答でさえ、テック業界関係者はおもしろがってSNSに投稿してくれた。

Microsoftと組んだこともよかった。大きな勝負にはお金が必要だし、Microsoftはクラウドコンピューティングも使わせてくれる。同社の製品にも搭載してもらえる。検索市場で負け組として長年辛酸を舐めてきたMicrosoftにとっては、Googleに一矢報いる千載一遇のチャンス。Microsoftにとっても多少のリスクを取る覚悟があったのだと思う。

炎上を恐れるGoogleなどのテック大手が様子見を続ける中で、ChatGPTはプラグインという仕組みを発表してきた。プラグインというのは追加機能のことで、レストラン予約サイトや、スーパーマーケットの食材配達サイトなどが既にプラグインを発表している。ChatGPTに「ここのレストランを予約しておいて」とか「このレシピに必要な食材の配達を注文しておいて」と命令すれば、ChatGPTがそれぞれのプラグインを通じて、予約や注文をしてくれるようになる。

スマートフォンで言うところのアプリストアのようなものだ。

ChatGPTに対する熱狂が続く中で、多くの企業がプラグインを提供してくるように思う。プラグインを提供する企業が増えれば増えるほど、ChatGPTはより便利になる。より便利になると、より多くのユーザーがChatGPTを使うようになる。ユーザーが増えると、より多くの企業がプラグインを提供しようとするだろう。正のスパイラルが起こるわけだ。

いったん正のスパイラルが起これば、ChatGPTは加速度を増して便利になり、競合サービスを引き離して独走状態に入る。OpenAIは、ChatGPTに対する世間の熱狂ぶりを利用して、Googleなどのテック大手を一気に引き離そうとしているのだと思う。

こうしたことができるのは、リスクを恐れずバズを作り出せたから。既存の大手が群雄割拠する市場で、弱小ベンチャーが勝ち進むにはこの方法しかないのかもしれない。SNS時代のベンチャーの戦い方として、興味深い事例の一つになった。

<関連記事>
チャットGPTが反社の手下になったら、どうする?(パックン)
チャットGPTは、アメリカ社会をどう変えるか?

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story