コラム

米国の産官学が一体となってAIを使って新型コロナウイルスに対抗

2020年04月16日(木)12時50分

新型コロナウイルスの治療法開発、感染拡大予測などのため米国内31カ所のスーパーコンピューターを開放するプロジェクト COVID-19 HPC Consortium

エクサウィザーズ AI新聞(2020年4月16日付)から転載

米国の産官学が一体となってAIを使って新型コロナウイルスに対抗し始めた。

米産官学コンソーシアム「COVID-19ハイ・パフォーマンス・コンピューティング・コンソーシアム」によると、米国内の31箇所のスーパーコンピューターを、コロナウイルス関連の世界中の研究者に無料で開放するという。コロナウイルスの構造を解析するためのシミュレーションや、ウイルスの付着場所の発見、感染拡大地域の予測などに、AIとスーパーコンピューターを利用できるとしている。

既に35以上のプロジェクトの提案が寄せられており、運営委員会が1日に2〜6の提案を審査し、どのプロジェクトにどのスーパーコンピューターを割り当てるのかという作業を急ピッチで進めているという。

同コンソーシアムは、IBMと米エネルギー省が中心になって創立。Google、Microsoft、Amazon、ヒューレット・パッカード、NVIDIA、AMDなどの民間企業に加え、米航空宇宙局(NASA)や、米科学財団(NSF)、ピッツバーグ・スーパーコンピューティング・センター、ワイオミング・スーパーコンピューティング・センター、ローレンス・リバモアなどの6箇所の国立研究所などの公的機関、マサチューセッツ工科大学(MIT)やカリフォルニア大学、テキサス大学などの大学の研究所なども協力している。

AIで治療薬開発

こうした産官学のコンピューターを合わせた計算能力は400ペタフロップ以上。スーパーコンピューターの定義が8ペタフロップ以上なので、スーパーコンピューターを50台、合わせた計算能力になる。

採択された研究プロジェクトの1つに、Argonne国立研究所のCOVID-19の治療方法の開発がある。同研究所は、AIでウイルスの生物学的メカニズムを解明し、治療方法の開発を急いでいる。

ドイツのAIベンチャーInnoplexusは、新薬を開発するための新たな分子を生成するためにディープラーニングを使うという。ドイツの自粛政策で自社のコンピューターを利用できなくなったので、遠隔で米国のコンピューターを利用させてもらうのだという。

MITは、人間のレセプターと同じような機能を持つレセプターの開発を急いでいる。大量に摂取しても副作用のないレセプターを、スーパーコンピューターを使って探し出そうとしているようだ。

NASAの研究者は、コロナウイルスで肺炎になるリスクのある遺伝子を特定。そのような遺伝子を持つ人たちを特定するために、スーパーコンピューターを利用する考えだという。

【著者からのお知らせ】
■優秀な仲間たちと社会課題を解決しよう
エクサウィザーズ の強みは、技術力xビジネスセンス。社会課題の解決に向け急成長中。エンジニアだけではなく、ビジネスサイドの人材も必要なんです。チャレンジ精神旺盛な方大募集です。
集え!社会を変えるウィザード達

20200421issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story