コラム

【学術会議問題】海外の名門科学アカデミーはなぜ名門といえるのか

2020年12月08日(火)11時22分

それに対して、特にグーテンベルグの印刷革命以降に発展した近代科学や思想といった学問領域はまさに「文字の文化」だ。すなわち、「分析的」で、「抽象的」で、「理念先行」だ。

今回の一件は、前回の構造編で見た様に、「声の文化」(政治家)と「文字の文化」(学者さらにはマスコミ)の職業文化的な「意味の場」の対立構造を本質的に孕んでいる

IV. 当事者の古層

現在、自民党を中心に日本学術会議を現行の国の特別機関から、民営化等非政府機関化する議論が出ている。

学術会議「国の機関から切り離し」 井上担当相の提案が波紋

これに対して、学術会議側は、2014年の有識者会議の審議を経て、国の特別機関でありながら独立性を保っている現在の形態が望ましく「変える積極的な理由は見いだしにくい」と反発している。

「軍事研究否定なら、行政機関から外れるべきだ」 自民・下村博文氏、学術会議巡り

こちらは私も下村政調会長が本当に「行政機関なら軍事研究すべき」などと言っているなら問題だと思ったが、中身を読むと冷静に改善策を提示している。


"10億円の国費支出も別に全部止めようと思っているわけではない。学問は学問で大切だから。海外のアカデミーと比べると、10億円はむしろ少ない。なぜ少ないかというと行政組織だから。行政組織でなくなれば、それだけでは運営していけないこともたくさん出るだろうから、そのために欧米のように独自にファンドを作って資金を集めるといった形を取りながら、より資金集めをしやすくなるような組織形態を考えていけばよいと思う。"

アマゾンが3.2兆円、グーグル(アルファベット)が2.4兆円、アップルが1.6兆円の研究開発を行う時代に、年間10億円の予算のままでは、大した事は何もできない。役割と予算の抜本的な見直しが必要なことは確かなことだ。

文脈解釈では、必ずその当事者の古層(原点)とも言うべき歴史的な文脈を考えるべき。

日本では明治以降の富国強兵による近代化で官尊民卑で国家が民間よりも偉いという風潮のもと、公(おおやけ)の為になることは全て国が資金を出すのが当たり前という論調が強い。

学問の世界においても、国立大学、旧帝国大学の方が私立大学よりも権威があり、国家の大事は国が主導するのが当たり前という考え方が国民の間でも根強い。これは国家総動員法として国が芸術・文化:科学技術含めた国民生活全てに関与する1940年体制として、今の日本に根深く根付いている。

戦時における「自粛」という言葉もこの戦時体制に生まれたものだし、大企業の企業別組合も、行政の監督官庁、護送船団方式も、税の源泉徴収制度も様々な「1940年体制」が今の日本社会の古層として残っている

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、前倒しの過度の利下げに「不安」 

ワールド

IAEA、イランに濃縮ウラン巡る報告求める決議採択

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story