コラム

【学術会議問題】海外の名門科学アカデミーはなぜ名門といえるのか

2020年12月08日(火)11時22分

もう一つの古層が、GHQ主導の1951年のサンフランシスコ平和条約の古層だ。その頃、日本学術会議は設置された。戦前では日本学士院が、日本におけるアカデミーの役割を担っていたが、GHQが戦争遂行体制の一翼を担った帝国学士院を廃し、新しい組織を作ろうとしてできたのが、日本学術会議だ。

(奇しくも、同じ時期にGHQ主導でできたのが、政治家の汚職を独自に捜査する東京地検特捜部だ。安倍・菅政権は、時の政権から独立性が強く批判的な「歴史の古層」を持つ組織(日銀、中央官庁、検察、学術会議等)への人事的関与を徹底的に強めようと尽力してきた。そして、その恣意的な人事権の行使が、度々国民の反発を買い政権の支持を低下させている。)

先の報道番組において松宮教授の反論発言が印象深い。


「日本に欧米のようなアカデミーが無くても良いのですか」

松宮教授の発言は、

①戦前の戦争遂行体制に科学者が組み込まれた反省から「学問の自由」が確保された政府から「独立した」存在であることが必要(1951年の古層)

としつつ

②国を代表する学術機関として自分達は政府組織として存続すべき。(1940年の古層)

とダブルスタンダードの主張をしている。

ここに多くの国民は矛盾を感じている。

何故、100%国の行政機関であり自分達が非常勤の特別職公務員である必要があるのか。それに対する明確な答えはない。おそらく、民間からお金を集めるとか、ファンドの運営とか言われても全く想像がつかないのだと思う。また、民間団体としてより独立的な立場で自由にと言われても、一度独立したら最後、国からの補助も徐々になくなり存続の危機に陥る事を恐れているのだと思う。

独立性の担保は憲法23条で保証されているので当然だが財源は国に頼りたい。政府の諮問機関としての答申は義務ではないので政府から諮問がなければ回答せず、年に1度の提言に留める。

これでは、国民の支持は得られない。

自民党PTとしては、2023年までに政府から独立した機関とするように政府に要望するようだ。

日本学術会議、23年までに政府から独立を 自民PT、政府に提言へ

但し、議論の発端の「任命権」には触れず、軍事目的のための科学研究を行わない現行方針を維持するのか、研究成果を軍民両面で利用する「デュアルユース」を推進させるのかについても触れない様子だ。また、10億円しかない財源についても、どうするのか、等、政府機関からは切り離す方針以外、まだまだ決まってないことが多い。

学術会議、菅総理、双方痛み分けで、新しい科学と政治のあるべき関係を模索してほしい。

@@@@

構造と文脈の実践マニュアルはこちら

人生がより生きやすくなる「構造化」の技術とは〜構造と文脈で世界はシンプルに捉えることができる〜
kouzou2.jpg

人生がより生きやすくなる「文脈解釈」の技術とは〜構造と文脈で世界はシンプルに捉えることができる〜

bunyaku2.jpg

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story