コラム

危険なのは「気球」だけではない...各国の「上空」で中国が仕掛ける有害活動

2023年02月21日(火)20時06分
中国の観測気球(イメージ画像)

写真はイメージです LanKS-Shutterstock

<アメリカや日本が懸念すべき中国の活動はスパイ気球だけではない。ロシアよりはるかに進んだ妨害行為の実態とは?>

スパイ気球の問題がいまも尾を引いている米中関係だが、2月19日夜にドイツ南部ミュンヘンで、アンソニー・ブリンケン米国務長官が中国で外交を統括する王毅政治局委員と1時間にわたって会談を行った。

ブリンケンは「中国との衝突は望んでおらず、新たな冷戦も目指していない」と伝えたが、中国の王毅は相変わらず、アメリカが気球を撃墜したことに対して「武力の乱用」が両国関係に損害を与えたと逆ギレした。

そもそもアメリカの領空に勝手に入った側の言い草ではないが、対話が再開したことでこの問題はひとまず解決に向かいそうだ。

そんな中国だが、実は今回の問題以外でも、アメリカが不快感や懸念を示すような活動を宇宙空間で行っていることが判明している。

■中国が空のかなたで行う工作により、アメリカが被った「永久的な損傷」

米宇宙軍のデビッド・トンプソン作戦担当副長官は、中国やロシアから、毎日のように宇宙でアメリカの衛星などに対する妨害行為が続けられていると指摘している。ただ今では、ロシアよりも中国の方が断然「進んでいる」と、トンプソンは言う。

その攻撃は、例えばレーザーを使ったものから、高周波や電磁波のジャマー(通信妨害装置)、またはサイバー攻撃などだ。「キラー衛星」と呼ばれる小型の操縦可能な衛星を送り込んで、ターゲットに近づいて衛星にダメージを与えたり、無効化したり、破壊することもあるという。

NASAに5000件以上のサイバー攻撃

こうした攻撃は機密情報ということもありトンプソンは詳しくは語らなかったが、地上でも、衛星のコントロール施設などへのサイバー攻撃が確認されている。例えば、2008年から2011年を見ても、NASAは5000件以上のサイバー攻撃を受けていたことが判明しており、そのうち1件では、完全にコントロールを奪われている。

また、中国系ハッカーがNASAの衛星を乗っ取るようなケースが少なくとも3件起きたと報告されている。2008年10月にはNASAの衛星のコントロールが9分間も中国のハッカーに乗っ取られている。

気球の問題も、宇宙での妨害活動も、中国は決して自分たちの非を認めることはないし、謝罪もしないだろう。それは新型コロナウィルスの発生に関しても同じだ。

そしてそれはアメリカに対してだけでなく、日本に対しても変わらない。2049年までに世界の覇権を取ろうとしている中国とはそういう国であることを、隣国として日本は肝に銘じておく必要がある。

中国の宇宙での妨害活動については、「スパイチャンネル~山田敏弘」で解説しているので、ぜひそちらをご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

商船三井の今期、純利益を500億円上方修正 市場予

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高の流れを好感 徐々に模

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

米首都の空中衝突、旅客機のブラックボックス回収 6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story